Part 744は第3の軸
Part 744は第3の軸

ここまで、EARの判断を品目(ECCN)仕向地(カントリーグループ)の軸で見てきました。

Part 744 は、第3の軸です。

正式には「Control Policy: End-User and End-Use Based」、エンドユーザーとエンドユースに基づく規制です。

そしてこの軸は、前の2つを飛び越えて効きます

品目が EAR99 でも      → 規制されうる
de minimis で外れても  → 規制されうる
許可例外が使える品目でも → 規制されうる

「モノは大丈夫」で終わらせてはいけない理由が、ここにあります。

みなとくん船長、EAR99なら安心だと思っていました
あんぼう船長そこがな、いちばん危ないところでな。相手を見る規制は、別に効いておるんじゃ
Entity List は Part 744 の Supplement No.4 に収録され、要件は§744.11に定められています。そして原文には、SDN List(米国財務省OFACの特別指定国民リスト)と重なる先が含まれると説明されています。商務省の規制と財務省の制裁が重なる領域があるということです。

この記事は、現職で輸出管理・貿易実務に携わっている方に向けて書いています。

この記事を読むと、あなたの判断はこう変わります

  • 「該当しないから終わり」で止まらなくなります
  • 「知らなかった」がなぜ通らないのかが条文レベルで分かります
  • 照合すべきリストが1つではないことに気づけます
  • 出荷後の連絡体制という、抜けやすい論点が埋まります

この記事で扱うこと

この記事の後半では、条文の中身と実務への落とし込みに入ります。

  • Part 744が扱う範囲:エンドユーザー基準とエンドユース基準。Entity ListはPart 744のすべてではない
  • エンドユース規制の構造CCL該当と無関係に、用途を知っていれば許可が要る(§744.2)
  • ★「know」の定義はPart 772にある:原文が明記する「more than positive knowledge」「know or have reason to know から文言を変えても責任は変わらない
  • 「reason to know」が問われうる場面6つ:特に「公開情報を調べれば分かる懸念があった」
  • 照合すべきリスト:外国ユーザーリスト/Entity List/SDN List/その他BIS公表リスト。BISには統合検索の仕組みもある
  • 「調べた記録」に残す5項目:照合日・リストの版・別名を含む照合対象・結果・根拠資料
  • ★輸送中(in transit)にBISから通知を受けた場合ライセンスを取るまで取引を進められない。出荷したら終わりではない
  • 掲載された場合の実務影響4つ:罰金ではなく事業継続そのものに及ぶ。違反したときだけ載るわけではない
  • 日本の実務への落とし込み5ステップ日本の客観要件確認とEARのエンドユース確認を1枚にまとめるコツ

Entity Listはどこにあるか

Part 744 の Supplement No.4 に収録されています。要件は§744.11に定められています。

そして原文には、こう説明されています。

The Entity List in supplement no. 4 to part 744 includes certain persons that have also been designated with certain identifiers on the SDN List.

SDN List(米国財務省OFACの特別指定国民リスト)と重なる先が含まれる、という趣旨です。

つまり、商務省(BIS)の規制と、財務省(OFAC)の制裁が重なる領域があるということです。


1. Part 744が扱う範囲

Part 744が扱う範囲
Part 744が扱う範囲

Part 744は、Entity Listだけを定めた条文ではありません。原文の冒頭にこうあります。

This part contains prohibitions against exports, reexports, and selected transfers to certain end users and end uses

特定のエンドユーザーとエンドユースに対する禁止を定めた部です。

含まれる規制の性格は、上の図のように2つの軸に分かれます。誰に渡るか(エンドユーザー基準)と、何に使われるか(エンドユース基準)です。

Entity Listは「エンドユーザー基準」の代表例であって、Part 744のすべてではありません。

2. エンドユース規制:用途で止まる

エンドユース基準の例として、原文には核関連の用途に関する規定が置かれています(§744.2)。

構造はこうです。

you may not export, reexport, or transfer (in-country) ... an item subject to the EAR without a license if, at the time of export ... you know that the item will be used ... in any one or more of the following activities

CCLに載っているかどうかとは無関係に、用途を知っていれば許可が要るという作りです。

対象となる活動には、核爆発装置に関する研究・開発・設計・製造・建設・試験・保守などが挙げられています。

3. 「know(知っている)」の定義が重要です

「know」の定義はPart 772にある
「know」の定義はPart 772にある

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい論点です。

原文には、脚注でこう記されています。

Part 772 of the EAR defines "knowledge" ... The definition, which includes variants such as "know" and "reason to know", encompasses more than positive knowledge.

要点は2つ。

  1. 「knowledge」の定義はPart 772にある
  2. 積極的に知っていること(positive knowledge)以上を含む:「reason to know(知るべき理由がある)」を含む

さらに原文は、こう補足しています。

the use of "know" in this section in place of the former wording "know or have reason to know" does not lessen or otherwise change the responsibilities

条文の文言が「know」に簡略化されても、責任の範囲は変わらない。という念押しです。

「知らなかったで済まない。知るべきだったかを問われる」

4. 「知るべきだった」とは何か

日本の輸出管理でいう客観要件に、発想が近いところがあります。

【「reason to know」が問われうる場面の例】
□ 取引の申し込みが不自然に唐突
□ 需要者の事業内容と、購入する品目が釣り合わない
□ 用途の説明を求めても曖昧なまま
□ 通常と異なる支払条件・輸送経路
□ 最終需要者の開示を拒む
□ 公開情報を調べれば分かる懸念があった ★

★の最後が重要です。調べれば分かったことを調べていなかった。これは「知らなかった」の抗弁として弱くなります。

Entity Listは公開されています。照合していなかったことは、責任を軽くする理由になりません。

5. 実務でやるべきこと

照合すべきリストは1つではない
照合すべきリストは1つではない

① 照合を手順に組み込む

□ 取引先の登録時に照合する
□ 定期的に再照合する(リストは改定される)
□ 照合日と、参照したリストの版を記録する

日本の外国ユーザーリストと同じ運用が要ります。別のリストなので、両方です。

【照合すべきリストの例】
□ 日本:外国ユーザーリスト
□ 米国:Entity List(Part 744 Supplement No.4)
□ 米国:その他BISが公表するリスト
□ 米国:OFACのSDN List(財務省)

BISは複数のリストを公表しており、統合して検索できる仕組みも用意されています。

② 「調べた記録」を残す

「reason to know」が問われる以上、調べた事実を残すことに意味があります。

□ 照合した日
□ 使用したリストと、その版
□ 照合対象(正式名称・別名)
□ 結果
□ 用途・需要者について確認した内容と、その根拠資料

③ 出荷が始まったあとの通知に注意

輸送中の通知で取引が止まる
輸送中の通知で取引が止まる

原文には、輸送中(in transit)にBISから通知を受けた場合の規定があります。

you may not proceed any further with the transaction unless you first obtain a license from BIS

通知を受けたら、ライセンスを取るまで取引を先に進められません。

出荷したら終わり、ではないということです。輸送中の連絡に対応できる体制が要ります。

6. 掲載された場合に何が起きるか

掲載の影響は事業継続に及ぶ
掲載の影響は事業継続に及ぶ

自社が掲載される事態は避けたいものです。実務上の影響を整理します。

□ 米国企業が、その会社へEAR対象品目を輸出できなくなる
□ 掲載された会社自身も、EAR対象品目の輸出・再輸出が制限される
□ 結果として、米国製部品を使った製品の製造・供給に支障が出る
□ 取引先が、リスク回避のため取引を控えることがある

罰金と違い、事業の継続そのものに影響します。

そして重要なのは、掲載されるのは違反したときだけではないという点です。安全保障・外交政策上の理由で掲載されることもあります。

7. 日本の実務への落とし込み

① 自社製品にEAR対象品目が含まれるか把握(B17の部品表)
        ↓
② 含まれる場合、取引先の照合をリストに追加
   → 日本の外国ユーザーリスト
   → 米国のEntity List
   → SDN List
        ↓
③ 用途・需要者の確認を、日米共通の手順にする
   → 日本の客観要件の確認とEARのend-use確認は
     重なる部分が多い
        ↓
④ 記録を残す(照合日・版・根拠)
        ↓
⑤ 輸送中の通知に対応できる連絡体制を持つ

③がコツです。日本の客観要件確認とEARのエンドユース確認は、聞くべきことがかなり重なります確認シートを分けず、1枚にまとめると現場の負荷が下がります。

まとめ

  • Part 744 はエンドユーザー・エンドユースに基づく規制。品目・仕向地とは別の次元で効く
  • EAR99でも、de minimisで外れても、許可例外が使える品目でも規制されうる
  • Entity List は Part 744 Supplement No.4、要件は§744.11
  • SDN List(財務省OFAC)と重なる先が含まれる
  • エンドユース規制は、CCL該当と無関係に、用途を知っていれば許可が要る構造
  • ★「know」の定義は Part 772「reason to know」を含み、positive knowledge以上
  • 調べれば分かったことを調べていなかった。これは抗弁として弱い
  • 照合すべきリストは日本の外国ユーザーリスト/Entity List/SDN Listなど複数
  • 輸送中にBISから通知を受けたら、ライセンスを取るまで進められない
  • 掲載の影響は罰金ではなく事業継続そのもの
  • 実務のコツは、日本の客観要件確認とEARのエンドユース確認を1枚の確認シートにまとめる

さて、自社の取引先照合に、Entity List は入っているでしょうか。

次回は、EARシリーズの締めくくり、外為法とEAR、二重チェックをどう実務に落とすかを扱います。

みなとくん船長、"知るべきだった"を問われるというのは、重いですね
あんぼう船長重いのう。じゃがな、逆に言えば、調べた記録が自分を守ることにもなるんじゃ
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※ 条文は eCFR Title 15 Part 744 および Part 772(2026年7月23日版)によります。EARは改正が非常に頻繁で、Entity Listも随時更新されます。 実務では必ず eCFR およびBISの公表するリストで最新版をご確認ください。

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