「うちは米国に輸出していないから、EARは関係ない」

この理解は、正確ではありません。

米国の輸出管理規則(EAR)では、日本から第三国へ物を送る行為も規制の対象になりえます。米国法上、これを再輸出(reexport)と呼びます。

つまり、日本企業が日本から輸出する場面で、外為法とEARの両方を見なければならないことがあるのです。

そしてもう一つ、実務で最も誤解されている点があります。

EAR99は「規制なし」ではありません。

EAR99は「EARの対象ではあるが、CCLには載っていない品目」を指します。Entity Listに載っている相手には、EAR99でも許可が必要になる場合があります。

みなとくん船長、日本の会社なのに、なぜアメリカの法律が出てくるんですか
あんぼう船長そこがな、EARのいちばんの特徴でな。域外に及ぶ作りになっておるんじゃ
この記事は、現職で輸出管理・貿易実務に携わっている方に向けて書いています。

この記事を読むと、あなたの理解はこう変わります

  • 「subject to the EAR」という根幹の考え方が腹落ちします
  • Reexport/Transfer (in-country)/Deemed reexport を区別できるようになります
  • EAR99の誤解が解け、エンドユーザー規制まで視野に入ります
  • 何から手をつけるか(部品表の確認)が具体的に決まります

この記事で扱うこと

この記事の後半では、制度の構造に踏み込みます。

  • なぜ域外に及ぶのかモノに規制が付いてくるという発想。日本の外為法との構造的な違い
  • 何が「EARの対象」になるのか:米国内/米国原産/米国原産品を組み込んだ外国製品(de minimis)/米国技術を使って作られた外国製品(直接製品ルール)
  • 用語の整理:Export/ReexportTransfer (in-country)(国境を越えなくても規制が及ぶ)/Deemed export/Deemed reexport
  • Part 732「手順そのものが規則」:判断の5段階
  • General Prohibitions(一般禁止事項):「CCLに載っていないから大丈夫」とならない理由
  • EAR99の正しい理解:規制なしではない。エンドユーザー・エンドユース規制は及ぶ
  • 違反したらどうなるか:罰金より重い取引禁止。米国製品を使った製造にも支障が出る
  • まず何をすればよいか5ステップ:出発点は部品表(BOM)で米国原産品を洗い出すこと
  • 原文にあたる習慣:eCFRの主要パート早見表

EARとは何か

EARとは何か
EARとは何か

EAR(Export Administration Regulations)=米国の輸出管理規則です。

  • 所管は米国商務省 産業安全保障局(BIS)
  • 条文は米国連邦規則(CFR)Title 15 の Part 730〜774
  • 対象は主にデュアルユース品目(民生用途と軍事用途の両方に使えるもの)

そして重要なのは、米国連邦規則は米国政府の著作物であり、パブリックドメインだということです。誰でも無料で原文を読めます

「一次情報に、制限なくアクセスできる」

日本の法令をe-Govで確認するのと同じように、EARもeCFRで確認できます。伝聞に頼る必要はありません。


1. なぜ域外に及ぶのか:「subject to the EAR」という考え方

EARの根幹にある概念が「subject to the EAR(EARの対象である)」です。

日本の輸出管理が「日本から輸出する行為」を対象にするのに対し、EARは「モノがEARの対象かどうか」で捉えます。

モノに規制が付いてくる。このイメージが近いです。

【日本の外為法】
   日本から出す行為 → 規制

【米国EAR】
   EAR対象品目     → どこにあっても規制が付いてくる

だから、米国から日本に来た品目を、日本から第三国へ送るときにも規制が及ぶわけです。

2. 何が「EARの対象」になるのか

何が「EARの対象」になるのか
何が「EARの対象」になるのか

範囲を定めているのは Part 734 です。上の図のように、大きく4つに分かれます。

3番目と4番目が、日本企業に直接関わります。

自社製品が日本製であっても、米国原産の部品やソフトが一定割合を超えて含まれていれば、EARの対象になりえます。

3. 用語を整理する

用語を整理する
用語を整理する

EARの条文を読むには、いくつかの用語を押さえる必要があります。

用語 意味
Export 米国から国外へ出すこと
Reexport EAR対象品目を、米国以外の国から別の国へ送ること
Transfer (in-country) 同一国内での移転(相手や用途が変わる場合)
Deemed export 米国内で外国人に技術を開示すること
Deemed reexport 米国外で、第三国籍の人に技術を開示すること

日本企業に関わるのは主にReexportとTransfer (in-country)、そしてDeemed reexportです。

Transfer (in-country)に注意してください。国境を越えなくても、同じ国の中で相手や用途が変わる場合に規制が及ぶことがあります。

4. 判断の順番:Part 732が示す手順

判断の順番:Part 732が示す手順
判断の順番:Part 732が示す手順

EARには、Part 732「Steps for Using the EAR」という条文があります。手順そのものが規則として書かれているのです。

大枠はこうです。

① その品目は「subject to the EAR」か
   → 対象外なら、EARの話は終わり
        ↓
② ECCNはあるか(CCLに載っているか)
   → 載っていなければ EAR99
        ↓
③ 仕向地・エンドユーザー・エンドユースを確認
        ↓
④ 一般禁止事項(General Prohibitions)に触れるか
        ↓
⑤ 許可が必要か
   → 許可例外(License Exception)が使えるか
   → 使えなければ BIS へライセンス申請
   → いずれも不要なら NLR(No License Required)

「対象か → 分類 → 相手 → 禁止事項 → 許可」

日本の該非判定(モノ→相手)と似ていますが、①の「そもそも対象か」という段階があるのが特徴です。

5. General Prohibitions:10の禁止事項

Part 736に、一般禁止事項(General Prohibitions)が置かれています。

これはEARの骨格です。「何をしてはいけないか」が列挙されており、該当しなければ許可は不要という構造になっています。

禁止事項には、品目・仕向地に基づくもの、エンドユーザー・エンドユースに基づくもの、行為に基づくものなど、性格の異なるものが含まれます。

「CCLに載っていないから大丈夫」とはならない理由がここにあります。品目が EAR99 でも、エンドユーザーやエンドユースに基づく禁止事項に触れることがあるからです。

6. EAR99とは何か

EAR99とは何か
EAR99とは何か

EAR99=「EARの対象ではあるが、CCLには載っていない品目」です。

「規制対象外」ではありません。EARの対象内で、分類上どのECCNにも当てはまらないものを指します。

【誤解】EAR99 = 規制なし
【正しい】EAR99 = CCLに載っていないだけ。
          エンドユーザー・エンドユース規制は及ぶ

Entity Listに載っている相手には、EAR99の品目でも許可が必要になる場合があります。

ここは実務で最も誤解される点です。

7. 違反したらどうなるか

Part 764に執行に関する規定があります。

日本企業にとって重い意味を持つのが、取引禁止顧客リストへの掲載です。掲載されると

  • 米国企業が、その会社へEAR対象品目を輸出できなくなる
  • 掲載された会社自身も、EAR対象品目の輸出・再輸出ができなくなる
  • 結果として、米国製品を使った製品の製造にも支障が出る

罰金だけの話ではありません。取引そのものが成立しなくなる性格の措置です。

8. まず何をすればよいか

① 自社製品に米国原産品・米国原産技術が含まれているか把握する
   □ 部品表(BOM)で米国製部品を洗い出す
   □ 組み込みソフトの出所を確認する
   □ 製造に使っている技術のライセンス元を確認する
        ↓
② 含まれている場合、その割合を把握する
   → de minimisルールの判断に必要
        ↓
③ ECCNを確認する
   □ 米国のサプライヤーに問い合わせる(最も確実)
   □ 自社で分類する場合は Part 774 のCCLで確認
        ↓
④ 仕向地・エンドユーザーを確認する
        ↓
⑤ 許可の要否を判断する

①が出発点です。そもそも米国原産品が含まれていなければ、多くの場合EARの心配は要りません。

部品表と、米国サプライヤーへの問い合わせ、ここから始めてください。

9. 原文にあたる習慣を

EARについては、日本語の解説が数多くあります。有用ですが、改正が非常に頻繁なため、解説が最新とは限りません。

原文はeCFRで無料公開されています。

eCFR(電子連邦規則集)
https://www.ecfr.gov/current/title-15
   Part 730  総則
   Part 732  使い方の手順
   Part 734  適用範囲(de minimis・直接製品ルール)
   Part 736  一般禁止事項
   Part 738  CCLとカントリーチャート
   Part 740  許可例外
   Part 744  エンドユーザー・エンドユース規制(Entity List)
   Part 772  用語の定義
   Part 774  CCL本体

用語の定義(Part 772)を引く習慣を持つと、解釈のぶれが減ります。

まとめ

  • EARは米国商務省BISが所管する輸出管理規則(15 CFR 730〜774
  • 日本から第三国へ送る行為が、米国法上の再輸出(reexport)にあたりうる
  • 根幹は「subject to the EAR」モノに規制が付いてくるという考え方
  • 日本企業に関わるのは主に米国原産品を組み込んだ外国製品(de minimis)と米国技術を使って作られた外国製品(直接製品ルール)
  • Transfer (in-country) に注意。国境を越えなくても規制が及ぶことがある
  • Part 732に手順そのものが規則として書かれている
  • EAR99は「規制なし」ではない。エンドユーザー・エンドユース規制は及ぶ
  • 違反の重さは罰金より取引禁止。米国製品を使った製造にも支障が出る
  • 出発点は部品表で米国原産品を洗い出すこと
  • 原文はeCFRで無料公開。パブリックドメインなので制限なく参照できる

さて、自社製品の部品表に、米国原産の部品はどれくらい含まれているでしょうか。

次回は、その割合が結論を分ける仕組み、de minimisルールを扱います。10%と25%、2つの基準があることをご存じでしょうか。

みなとくん船長、まず部品表を見てきます
あんぼう船長それでよい。そこが分からんうちは、EARの話は前に進まんのでな
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※ 条文は eCFR Title 15(2026年7月23日版)によります。EARは改正が非常に頻繁です。 実務で判断する際は必ず eCFR で最新版をご確認ください。本記事は制度の全体像を整理したものであり、個別事案の判断を示すものではありません。

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