輸出管理の担当者にとって、いちばん怖い瞬間があります。
「これ、許可が要ったのでは」
過去の案件を見返していて気づいた。監査で指摘された。取引先から連絡が来た。税関から問い合わせが来た。
そのとき、何をすればいいか。
経済産業省が、手順を公表しています。
□ どこに連絡するか → 決まっている
□ 何を伝えるか → 7項目、決まっている
□ 何を提出するか → 様式が用意されている
□ メールの件名まで → 指定されている
手順があるということは、想定されているということです。「前例のない事態」ではありません。
無許可で輸出・提供したことが発覚した場合、安全保障貿易検査官室による事後審査が行われます。その目的は、こう書かれています。
事後審査では、事実関係の解明とともに、違反者により再発防止策を策定し、今後同様の無許可輸出等とならないよう、適切な輸出管理に取り組んでいただきます。
罰することが目的の第一に書かれていません。 事実の解明と、再発防止です。


この記事を読むと、あなたの備えはこう変わります
- 事故が起きたときの初動が、手順として持てます
- 平時に作っておくものが具体的に分かります
- 再発防止策に何を書けば通るかが分かります
- 現場の誰かが気づいたとき、言い出せる仕組みが作れます
この記事で扱うこと
この記事の後半では、実際に動ける形にします。
- ★最初の一報で伝える7項目:公表されているとおりの項目。そのまま社内の事故報告様式にできる。「違反事実を認識した経緯」(自社発覚/他者発覚)が聞かれる意味
- 提出書類と作法:件名まで指定されている。★案件調査票のエクセルは行・列の挿入・削除・結合をしない/複数案件でも1ファイル・シートを分ける、という具体的な指示
- ★税関への申告不備は別ルート:ケースA(無許可輸出)とケースB(申告漏れ)の切り分け。件名も提出物も違う
- 連絡先と受付時間:事後審査担当と申請窓口は別。用件で使い分ける
- ★平時に作っておくもの4つ:①7項目の事故報告様式 ②エスカレーションのルール(担当者の独断で連絡しない設計) ③すぐ出せる該非判定書(判定日の記録) ④言い出しやすさの設計
- 報告は輸出者等遵守基準に含まれる義務であること
- 過去3年分の違反事例:国が「典型的な事例」と呼んでいる意味と、研修での使い方
- ★再発防止策に何を書くか:通らない書き方3つ/通る書き方4つ。「どの工程で止まらなかったか」の特定が出発点。「そもそも案件が来なかった」が実は多いという指摘
まず知っておくこと:これは「事後審査」といいます

無許可で輸出・提供したことが発覚した場合、経済産業省安全保障貿易検査官室による事後審査が行われます。
その目的は、こう書かれています。
事後審査では、事実関係の解明とともに、違反者により再発防止策を策定し、今後同様の無許可輸出等とならないよう、適切な輸出管理に取り組んでいただきます。
罰することが目的の第一に書かれていません。 事実の解明と、再発防止です。
もちろん、悪質な場合は別の話になります。ただ、多くの事案で求められているのは「原因を明らかにして、二度と起こさない体制を作ること」です。
1. 最初の一報で伝える7項目

案件調査票を作る前に、まず一報を入れる場合の項目です。公表されているとおりに引きます。
□ 輸出者/提供者の名称
□ 輸出貨物/提供技術の一般名称
□ 輸出令別表第一/外為令別表の該当項番
□ 仕向国/最終需要者(輸出/提供先)の名称
□ 最終需要者(輸出/提供先)の名称
□ 違反事実を認識した経緯(自社発覚/他者発覚 等)
□ 連絡者(氏名、所属部署、連絡先:電話番号・e-mailアドレス等)
この7項目は、そのまま社内の事故報告フォーマットにできます。
各項目の意味
| 項目 | なぜ聞かれるか |
|---|---|
| 輸出者/提供者の名称 | 誰の案件か |
| 貨物/技術の一般名称 | 何が出たか |
| 該当項番 | どの規制に触れたか |
| 仕向国/最終需要者 | どこへ、誰に届いたか |
| 違反事実を認識した経緯 | ★自社で気づいたか、外から指摘されたか |
| 連絡者 | やりとりの窓口 |
★「認識した経緯」が聞かれることに注目してください。
自社で気づいて自ら申し出たのか、税関や取引先から指摘されたのか。 ここは事実として記録されます。
公表データでも、違反の59%は税関で発覚している一方、CP届出企業は6割が自社で気づいているという傾向が出ています(違反の59%は税関で見つかっている)。
自社で気づける体制があるかどうかは、こういう場面で効いてきます。
2. 提出書類と、その作法

一報のあとは書類です。電子メールで提出します。
件名の指定
件名は「無許可輸出等について(輸出者名等)」としてください。
件名まで指定されています。 独自の件名を付けないでください。
提出するもの
□ 案件調査票(★エクセルファイルにて提出)
※ファイル名に輸出者名を明記
□ 該非判定に関する書類
エクセルの扱いに、明確な指示があります
ここは見落としやすいので、原文どおり引きます。
※エクセルのフォーマットの変更(行/列の挿入・削除・結合)はしないでください(文字が見えない場合には行の幅を広げてください)。文字が収まらない場合には、別紙参照とし、別ワークシートに作成いただいて構いません。
複数案件ある場合でも一つのエクセルファイルにて御提出ください。その場合、輸出先/最終需要者別にワークシートを用いて作成してください。
整理すると
【やってはいけない】
□ 行・列の挿入
□ 行・列の削除
□ セルの結合
□ 案件ごとにファイルを分ける
【やってよい】
□ 行の幅を広げる
□ 書ききれない場合は「別紙参照」として別シートに書く
□ 1ファイルの中で、輸出先/最終需要者ごとにシートを分ける
様式をいじると、受け取る側で処理できなくなります。 事務的な話に見えますが、やり直しになると時間を失います。
なお、資料には「案件調査票(記載ポイント)」という手引きも用意されています。作成前に必ず目を通してください。
3. 税関への申告不備は、別ルートです

もう1つ、混同しやすい経路があります。
【ケースA】無許可で輸出・提供してしまった
→ 事後審査担当へ「無許可輸出等について(輸出者名等)」
【ケースB】税関への輸出申告時の不備
(輸出許可証・特例適用等の申告漏れ)
→ ★まず税関に報告
→ そのうえで「申告不備について(輸出者名等)」で経産省へ
ケースBで提出するのは
□ 申告不備概要(様式あり)
□ 該非判定書類
件名も違います。「申告不備について(輸出者名等)」です。
「許可は取っていたが、申告で書き漏らした」というのがケースBです。許可自体が無かったケースAとは扱いが分かれます。
自社の事案がどちらか、最初に切り分けてください。
4. 連絡先
経済産業省 貿易経済安全保障局 貿易管理部
安全保障貿易検査官室 事後審査担当
E-mail:bzl-jigo-shinsa(at)meti.go.jp ※(at)は@に変換
電話 :03-3501-2841
(9:30〜17:00/平日12:00〜13:00及び土日祝日を除く)
「メールでのお問い合わせにご協力を」と案内されています。まずメール、が原則です。
なお、事後審査中に新たに許可申請をする必要が出た場合は、安全保障貿易審査課(申請窓口)が対応します。窓口が分かれているので、用件で使い分けてください。
5. 社内で、いま作っておくもの
事故が起きてから調べるのでは遅い。平時に用意しておくものを挙げます。
① 事故報告フォーマット(7項目版)
先ほどの7項目を、そのまま社内様式にしてください。
現場の担当者が「これを埋めれば報告になる」状態にしておくのが目的です。項目を思い出しながら書かせると、抜けます。
② エスカレーションのルール
□ 誰が気づいても、まず誰に上げるか
□ 上げる期限(★「気づいたその日」と決める)
□ 誰が経産省へ連絡するか(★担当者の独断で連絡しない設計に)
□ 経営への報告ライン
輸出者等遵守基準にも、「法令違反などがあった際は、速やかに経済産業大臣に報告し、再発防止のために必要な措置を講ずること」が含まれています。報告は義務の側です。
③ 該非判定書がすぐ出せる状態
提出書類に「該非判定に関する書類」が入っています。
□ 案件ごとに判定書が紐づいているか
□ ★判定日が記録されているか
□ 判定に使った法令の版が分かるか
□ 判定者・確認者が分かるか
判定書が出てこない、という事態がいちばん困ります。 事後審査は「事実関係の解明」なので、記録がないと説明できません。
④ 「言い出しやすさ」の設計
制度の話ではなく、組織の話です。
□ 気づいた人が責められない運用になっているか
□ 「たぶん大丈夫」で流さずに確認できるか
□ 過去案件の見直しを、言い出せるか
隠される事故がいちばん重くなります。 ここは仕組みだけでは解決しないところです。
6. 過去の違反事例は、公表されています
自社で起きる前に学べる材料があります。
経済産業省は、最近(過去3年間)の違反事例を取りまとめた資料を公表しています。
外為法違反の典型的な事例等ですので、外為法違反の未然・再発防止及び分析等の参考資料として御活用ください。
□ 外為法違反事例について(令和6年度)
□ 外為法違反事例について(令和5年度)
□ 外為法違反事例について(令和4年度)
「典型的な事例」と国が言っているわけです。裏を返せば。同じ型の事故が繰り返されているということです。
3年分を分析した記事は、無料で公開しています。
研修資料に使うなら、この3年分がいちばん効きます。 「よその会社の話」ではなく「毎年起きていること」だと伝わるからです。
7. 再発防止策に何を書くか

事後審査では、再発防止策の策定が求められます。
「気をつけます」では通りません。仕組みの変更が要ります。
【弱い再発防止策】
□ 担当者に周知徹底する
□ 注意喚起を行う
□ チェックを強化する
【通る再発防止策】
□ ★どの工程で止まらなかったかを特定している
□ その工程に、人に依存しない関門を追加している
□ 責任者と手順を文書化している
□ 実施状況を確認する仕組み(監査)がある
「どこで止まらなかったか」の特定が出発点です。
三本の矢のどこか、あるいはその外側か。
該非判定で止まらなかった → 判定手順・ダブルチェック
取引審査で止まらなかった → チェックリスト・照合の仕組み
出荷管理で止まらなかった → 同一性確認の関門
そもそも案件が来なかった → ★営業側への周知・受注フローへの組み込み
最後の「そもそも案件が来なかった」が、実は多いです。輸出管理部門に相談が上がらなかった、というパターン。この場合、対策は輸出管理部門の中には作れません。受注・出荷のフローに関門を埋め込む必要があります。
まとめ
- 無許可輸出等が判明した場合、安全保障貿易検査官室による事後審査が行われる
- 目的として事実関係の解明と再発防止策の策定が挙げられている
- ★最初の一報は7項目:輸出者名/貨物・技術の一般名称/該当項番/仕向国・最終需要者/違反事実を認識した経緯/連絡者
- 「認識した経緯」が聞かれる。自社発覚か他者発覚かは記録される
- 提出は電子メール。件名は「無許可輸出等について(輸出者名等)」と指定
- ★案件調査票のエクセルは、行・列の挿入・削除・結合をしない。複数案件でも1ファイル、シートを分ける
- 税関への申告不備は別ルート。まず税関へ報告し、件名は「申告不備について(輸出者名等)」
- 平時に作っておくのは①7項目の事故報告様式 ②エスカレーションのルール ③すぐ出せる該非判定書 ④言い出しやすさ
- 報告は輸出者等遵守基準に含まれる義務の側
- 過去3年分の違反事例が公表されている。国が「典型的な事例」と呼んでいる
- 再発防止策は「どの工程で止まらなかったか」の特定から。「そもそも案件が来なかった」が実は多い
さて、自社で誰かが「これ、まずいかもしれません」と気づいたとき、その人はどこに言えばいいか、分かっているでしょうか。
分からないなら、この記事の7項目を1枚にして配る。今日できることは、それだけで十分です。


※ 手順・提出方法・連絡先は経済産業省「事後審査(安全保障貿易)」(最終更新2026年4月6日)の記載によります。運用は変更されることがあります。 実際に事案が発生した場合は、必ず 経済産業省 安全保障貿易管理 で最新の案内を確認し、安全保障貿易検査官室へ直接ご相談ください。本記事は一般的な手順の整理であり、個別事案への対応を示すものではありません。
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