輸出管理の担当になると、必ず回ってくる仕事があります。
「営業部に、輸出管理の説明をしておいて」
そして、多くの人がこう作ります。
1. 安全保障貿易管理とは 2. 法令の体系 3. リスト規制
4. 補完的輸出規制 5. 該非判定の手順 6. 罰則
制度としては正しい。でも、営業には刺さりません。
理由は単純です。
聞き手が知りたいのは「制度」ではなく「自分は何をすればいいか」だからです。
伝えるべきことは、突き詰めると3つです。
① あなたが気づかないと、誰も気づけない場面はここです
② そのとき、こう動いてください
③ 動いてくれれば、あとはこちらでやります


この記事を読むと、あなたはこう変わります
- 部門ごとに何を言うかが決まります
- 教材をゼロから作らずに済みます
- 研修が相談につながるようになります
- 受講記録が体制の証跡になると分かります
この記事で扱うこと
この記事の後半では、実際に動ける形にします。
- ★部門ごとに作り分ける:営業30分/技術45〜60分/出荷20分/経営15分。それぞれの「伝えること/伝えないこと」
- ★営業には「相談すれば止まらない」を必ず言う:止まる恐怖が相談を止めている
- ★出荷には「止めても怒られない」を明言。できれば上長の口から
- ★経営には数字とリスクで話す。手順の話では意思決定につながらない
- ★METIの資料構成を型として使う5つ:①問いから始める(回答は38ページ後という構成の意味) ②結論を先に ③注釈は後ろ ④事例は3件まで ⑤フロー図は分ける
- 自社版ケースの作り方:「これ、うちで起きたら誰が気づきますか」
- ★研修で使える公的な素材(無料)の一覧:「経済産業省の資料です」と言えることの価値
- ★「毎年起きている」と伝える:国が「典型的な事例」と呼んでいる意味。「CP届出企業は6割が自社で気づく」という前向きな対比
- 研修の効果を残す4つの仕掛け:★受講記録は遵守基準の証跡になる
- ★脅さない:身構えた人は相談してくれなくなる
聞き手に必要なのは、3つだけです

営業・技術・出荷の各部門に伝えるべきことは、突き詰めると3つです。
① あなたが気づかないと、誰も気づけない場面はここです
② そのとき、こう動いてください
③ 動いてくれれば、あとはこちらでやります
制度の説明は、①の根拠として最小限あればいい。
1. 研修は部門ごとに作り分ける

「全社共通の研修」を1本作ろうとすると、誰にも刺さらないものができます。
METIの体制図でも、部門ごとに役割が分かれています。上の図のように、部門ごとに「その部門にしかできないこと」があります。
★それぞれに「あなたにしかできないこと」がある。ここを軸に組み立てます。
営業向け(30分)
【伝えること】
□ 引合いの段階で気づいてほしい5つのサイン
□ 顧客に聞いてほしい3つの質問
□ 聞いた内容を「記録に残す」意味
□ 相談してくれれば止まらない、という事実 ★
【伝えないこと】
✗ 法令の階層
✗ 項番の読み方
✗ 罰則の条番号
★最後の「相談してくれれば止まらない」が最重要です。
営業がいちばん恐れているのは、「輸出管理に相談すると案件が止まる」ことです。ここを解かないと、相談が上がってきません。
【営業に必ず言うこと】
「早く言ってくれれば、止めずに済む方法を探せます。
遅れると、選択肢がなくなります」
技術向け(45〜60分)
【伝えること】
□ 貨物等省令の読み方(「限る」「除く」の型)
□ マトリクス表から入る手順
□ 用語の定義がどこにあるか(運用通達・役務通達)
□ ★はみ出し技術の考え方
□ ★据付・保守・修理は「使用」の技術提供
【伝えないこと】
✗ 罰則の詳細
✗ 許可申請の書き方
技術者には、条文の話が通じます。 むしろ数値・条件文の読み方を丁寧にやると刺さります。
出荷向け(20分)
【伝えること】
□ 確認する4項目(該非判定と取引審査が完了しているか/
審査したものと同一か/許可が必要なら取得済みか/
許可の対象と出荷物が同一か)
□ ★仕様変更・数量増・付属品追加があったら止める
□ 止めても怒られない、という保証 ★
【伝えないこと】
✗ 制度の全体像
★「止めても怒られない」を明言してください。 出荷部門は納期のプレッシャーの中にいます。止める権限を認めていることを、上長の口から伝えるのが理想です。
経営向け(15分)
【伝えること】
□ 統括責任者は代表取締役であることが求められている
□ 違反すると輸出そのものを止められることがある
□ ★違反企業の71%はCP未届出というデータ
□ 無料の支援制度がある
□ 必要な人員・予算
【伝えないこと】
✗ 実務の手順
★経営には数字とリスクで話します。 手順の話をしても意思決定にはつながりません。
2. METIの資料構成を、そのまま型として使う

教材をゼロから設計する必要はありません。国の資料が、すでによくできた型です。
型①:問いから始める
METIの入門編資料は、冒頭にケーススタディを2問置き、回答は38ページ後にあります。
【この構成が効く理由】
問いを持ったまま説明を聞く
↓
★「自分だったらどうするか」を考えながら聞く
↓
回答で腹落ちする
社内研修でも、冒頭に自社の事例を1〜2問置いてください。
【自社版ケースの作り方】
□ 実際にあったヒヤリハットを匿名化する
□ なければ、METIのヒヤリハット事例集から
自社に近いものを選ぶ
□ ★「これ、うちで起きたら誰が気づきますか」と問う
型②:1ページ1論点、結論を先に
METIの資料は、見出しの直下に黄色い結論ボックスがあります。
【スライドの型】
見出し
↓
★結論を1〜2文(枠で囲む)
↓
説明
先に結論。 説明を積み上げてから結論、にしないでください。
型③:注釈を後ろにまとめる
METIのハンドブックは、専門用語の注釈を巻末に集約しています(※1〜※11)。
本文が軽くなります。 スライドでも、用語解説は付録に回すと流れが切れません。
型④:事例は多すぎない
METIのハンドブックに載っている違反事例は2件だけです。
【選んだ2件】
□ 手荷物での無許可持ち出し
□ 少額特例の誤用(申告10万円/実際800万円)
どちらも「誰でも起こしうる型」です。
★事例は3件までにしてください。 多いと「よその話」になります。1件を深くのほうが残ります。
型⑤:フロー図は分ける
METIのハンドブックは、リスト規制の確認フローとキャッチオール規制の確認フローを別ページにしています。
1枚に詰め込まない。 分けたほうが理解されます。
3. 研修で使える公的な素材(無料)
自作しなくていいものが、たくさんあります。
【動画】
□ 中小企業のための輸出管理【概要編】【実務編】
【事例編】【体制構築編】(各3分)
□ あなたの会社を守る安全保障の輸出管理
【資料】
□ 説明会資料(入門編・初級編・中級編)
□ 安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]
□ 別添2 具体的な該非判定の事例
□ 別添3 輸出管理用語集
□ 別添4 帳票(様式)
【事例】
□ 外為法違反事例について(過去3年分)
□ 大学・研究機関 ヒヤリハット事例集
★3分間動画4本を最初に流す。これだけで導入の12分が埋まります。しかも国が作ったものなので、説得力が違います。
「経済産業省の資料です」と言えることの価値は大きいです。担当者個人の意見ではなくなります。
4. 「毎年起きている」と伝える

事例を使うときのコツです。
経済産業省は、過去3年間の違反事例を毎年公表しています。資料にはこう書かれています。
外為法違反の典型的な事例等ですので、外為法違反の未然・再発防止及び分析等の参考資料として御活用ください。
★国が「典型的な事例」と呼んでいる。つまり、同じ型が繰り返されているということです。
【伝え方】
✗ 「こういう違反がありました」
→ よその話に聞こえる
○ 「これは3年連続で出ている型です」
→ ★うちでも起きうると伝わる
そして、公表データの傾向も使えます。
□ 違反の52%は「該非判定」の段階で起きている
□ 違反企業の71%はCP未届出
□ 違反の59%は税関で発覚
(一方、CP届出企業は6割が自社で気づく)
★最後の対比が効きます。 「体制があると自分で気づける」という、前向きなメッセージになります。
5. 研修の効果を残す

研修は、やっただけでは残りません。
【残すための仕掛け】
□ ★研修の最後に「明日から何をするか」を1つ書かせる
□ 部門ごとの1枚メモを配る(研修資料とは別に)
□ 質問を受けた内容を記録し、次回の教材に反映
□ ★受講記録を残す(遵守基準の「研修」の証跡になる)
★最後の項目を忘れないでください。
輸出者等遵守基準には「研修を行うよう努めること」が含まれています。実施した記録は、体制の証跡になります。
【記録するもの】
□ 実施日
□ 対象部門・受講者数
□ 使用した資料
□ 内容の概要
6. 話し方で1つだけ

最後に、伝え方の話を。
この分野の説明で、いちばんやってはいけないのは「脅すこと」です。
✗ 「違反したら10億円の罰金です」
✗ 「懲役10年です」
✗ 「知らなかったでは済みません」
罰則から入ると、聞き手は身構えます。 そして、身構えた人は、相談してくれなくなります。
○ 「早く相談してもらえれば、止めずに済む方法を探せます」
○ 「気づいてくれる人がいる会社は、事故が少ないです」
○ 「分からないときに聞ける先が、私たちにもあります」
★研修の目的は、怖がらせることではなく、相談してもらうことです。
罰則は、必要な範囲で、淡々と伝えれば十分です。
まとめ
- 制度を教えるのをやめると伝わる。聞き手が知りたいのは「自分は何をすればいいか」
- 伝えるのは3つ:①気づけるのはあなただけの場面 ②そのときどう動くか ③動いてくれれば後はこちらでやる
- ★部門ごとに作り分ける。営業30分/技術45〜60分/出荷20分/経営15分
- ★営業には「相談すれば止まらない」を必ず言う。止まる恐怖が相談を止めている
- ★出荷には「止めても怒られない」を明言。できれば上長の口から
- ★経営には数字とリスクで話す。手順の話はしない
- METI資料の構成を型として使う:①問いから始める ②1ページ1論点・結論を先に ③注釈は後ろ ④★事例は3件まで ⑤フロー図は分ける
- ★公的な素材が無料でそろっている。3分間動画4本を導入に使う。「経済産業省の資料です」と言えることの価値
- 事例は「毎年起きている型」として伝える。国が「典型的な事例」と呼んでいる
- 公表データの★「CP届出企業は6割が自社で気づく」という対比が前向きに効く
- ★受講記録を残す。遵守基準の「研修」の証跡になる
- ★脅さない。身構えた人は相談してくれなくなる。目的は相談してもらうこと
さて、次の研修では、冒頭に自社のケースを1問、置いてみませんか。
これでキャリア編の追補は終わりです。未経験から目指す道(C1〜C9)と、任された後の道(F1〜F3)が揃いました。


※ 資料の構成・公表データ・支援コンテンツは経済産業省の公表資料によります。資料の構成を教材設計の参考として紹介したものであり、内容の転載を勧めるものではありません。 公的資料を研修に使用する際は、政府標準利用規約に従い出典を明記してください。研修の進め方は筆者の整理であり、公的な推奨手順ではありません。
改正を見落とさないために(無料)
安全保障貿易の制度は、たびたび改正されます。安貿ナビでは、経済産業省・CISTEC・米国EARの新着を確認し、実務への影響をメールでお届けしています。
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