みなし輸出の実務でいちばん誤解されているのが、ここです。
特定類型の確認は、相手の国籍を確認する作業ではありません。
見るのは契約関係です。外国の法人や政府と契約を結び、その指揮命令に服する、または善管注意義務を負うか。
日本人でも当てはまることがあり、外国籍でも当てはまらないことがあります。
そして除外規定にも落とし穴があります。「日本の会社にも勤めているから大丈夫」。これは不正確です。本邦法人側の指揮命令が優先すると「合意している」ことが要件だからです。


この記事を読むと、あなたの確認はこう変わります
- 国籍ではなく契約関係で判断できるようになります
- 除外規定の2つの要件(優先合意・議決権50%)を正確に押さえられます
- 誓約書2版の使い分け(就業規則の副業禁止規定の有無)が分かります
- 「該当=技術提供禁止ではない」という誤解を解き、対象者を業務から外さずに済みます
この記事で扱うこと
この記事の後半では、確認の実務に落とし込みます。
- 類型①の除外規定2つ:(イ)本邦法人の優先合意(★合意が要件。書面で残せているか)と(ロ)グループ外国法人等(議決権50%以上が基準)
- 類型②の「多額」は数字:年間所得の25%以上。「得ることを約している」だけでも該当しうる
- 誓約書は2版ある:5-1と5-2。就業規則の副業禁止規定の有無が分岐点
- YES/NOチャートで対象者を絞る:本人に出す前の社内整理に使う運用の流れ
- 誓約書で実際に何を聞くのか:類型①②③別のチェックリスト
- 運用上の注意3つ:対象者全員に一律で実施する理由/契約関係は変わる(再確認のタイミング4つ)/該当=禁止ではない
- 記録に残す7項目:特に除外規定を適用した場合の根拠(合意書面・議決権比率)
特定類型は3つです

役務通達に定義されています。上の図の3つです。自然人である居住者に限るという前提つきです。
そして①には除外規定があります。ここが実務の勘所です。
1. 類型①の除外規定:2つの逃げ道

①に形式上当てはまっても、次の2つに該当すれば特定類型から外れます。
除外(イ):本邦法人の指揮命令が優先すると合意している場合
条件を分解するとこうです。
□ 本人が本邦法人と契約を結んでいる(雇用・委任・請負等)
□ その契約に基づき、本邦法人の指揮命令に服する/善管注意義務を負う
□ かつ、本邦法人または本人が、外国法人等との間で
「本邦法人側の指揮命令・善管注意義務が優先する」と合意している ★
★の合意が要件です。「日本の会社にも勤めているから大丈夫」ではありません。優先することを合意している必要があります。
実務では、この合意を書面で残せているかが問われます。
除外(ロ):グループ外国法人等との契約の場合
□ 本人が本邦法人と契約を結んでいる
□ その契約に基づき、本邦法人の指揮命令に服する/善管注意義務を負う
□ かつ、外国側が「グループ外国法人等」である
グループ外国法人等とは、その本邦法人の議決権の50%以上を直接・間接に保有する外国法人、または本邦法人が議決権の50%以上を直接・間接に保有する外国法人をいいます。
「親子・兄弟会社なら除外されうる」。
50%という数字が基準です。「関連会社だから大丈夫」ではありません。議決権比率を確認してください。
2. 類型②の「多額」は数字で決まっています

②の「多額の金銭その他の重大な利益」には、明確な基準があります。
金銭換算した場合に、当該者の年間所得のうち25%以上を占める金銭その他の利益
25%です。感覚ではなく数字で判断できます。
ただし実務では難しさがあります。本人の年間所得を会社が把握しているとは限らないからです。だから誓約書で本人に確認する形になります。
また「得ることを約している者」も含まれます。まだ受け取っていなくても、約束があれば該当しうるという点に注意してください。
3. 類型③は範囲が広い
③は「本邦における行動に関し外国政府等の指示又は依頼を受ける者」です。
①②のような数値基準や契約要件がなく、幅広く捉えられうる規定です。
誓約書では、この点を本人に確認することになります。
4. 誓約書には2つの版があります

経済産業省は、特定類型該当性を確認するための誓約書の参考様式を公表しています。別添5-1と5-2の2種類です。上の図のとおり、5-1が通常版、5-2は就業規則に副業禁止規定がない場合などに使います。
5-2は5-1との差分として、使用条件の注記と、選択肢に報告文言が追加されている構成になっています。
自社の就業規則を確認したうえで、どちらを使うか決めてください。 副業禁止規定の有無が分岐点です。
5. YES/NOチャートを使う
経済産業省は、特定類型①②の該当性を確認する簡易YES/NOチャート(別添6)も公表しています。
質問に順に答えると該当・非該当が判定できる形式です。本人に記入してもらう前の、社内での事前整理に使えます。
【運用の流れ】
① 社内でYES/NOチャートを使い、確認が必要な対象者を絞る
↓
② 対象者に誓約書(5-1または5-2)を提出してもらう
↓
③ 該当する場合、技術提供時に許可の要否を判断
↓
④ 記録を保管
6. 誓約書で実際に何を聞くのか
様式の構成から、確認すべき論点を整理します。
【類型①関連】
□ 外国法人等・外国政府等との契約の有無
□ 契約がある場合、その相手方・契約種別
□ 指揮命令に服するか/善管注意義務を負うか
□ 本邦法人との契約の有無
□ 本邦法人側の優先について合意があるか(除外イ)
□ 外国側がグループ外国法人等か(除外ロ・議決権50%以上)
【類型②関連】
□ 外国政府等から利益を得ているか/得る約束があるか
□ その額が年間所得の25%以上か
【類型③関連】
□ 本邦における行動について、外国政府等から指示・依頼を受けているか
誓約書は本人が記入する書類です。会社が調べるのではなく、本人に申告してもらう構造になっています。
7. 運用上の注意:3つ
① 疑うのではなく、手順にする
特定の個人を狙って確認する形にすると、職場の関係を損ないます。
対象者全員に一律で実施する。これが原則です。「あなただけ」ではなく「全員に出してもらっています」という形にしてください。
② 状況は変わる
契約関係は変わります。入社時に非該当でも、その後に外国機関と契約を結ぶことがあります。
【再確認のタイミング】
□ 入社時・受入時
□ 定期(年1回など)
□ 契約関係に変更があったと本人から申告があったとき
□ 規制対象技術に新たにアクセスさせるとき
③ 該当=技術提供禁止ではない

誤解しやすい点です。特定類型に該当したからといって、その人に何も教えられなくなるわけではありません。
該当するのは「規制対象の技術を提供する場合に、許可が必要になりうる」ということです。
- 規制対象でない技術の提供は、そもそも対象外
- 公知の技術・基礎科学分野の研究活動は原則対象外
該当者を業務から外す必要はありません。 提供する技術の側を判定するのが先です。
8. 記録に残すこと
□ 誓約書の提出日・提出者
□ 使用した様式(5-1/5-2のどちらか)
□ 該当・非該当の判定結果
□ 該当の場合、どの類型か(①②③)
□ 除外規定を適用した場合、その根拠(合意書面/議決権比率)
□ 再確認の予定時期
□ 技術提供の記録(何を、いつ、誰に)
除外規定を適用した場合の根拠が最重要です。合意書面や議決権比率の資料が無いまま「除外に当たる」とするのは危険です。
まとめ
- 特定類型の確認は国籍ではなく契約関係を見る
- ①契約と指揮命令・善管注意義務/②年間所得の25%以上の利益/③外国政府等の指示・依頼
- ①には2つの除外規定:本邦法人の優先合意(★合意が要件)とグループ外国法人等(議決権50%以上)
- 誓約書は2版。就業規則の副業禁止規定の有無で使い分ける
- YES/NOチャートで事前に対象者を絞れる
- 対象者全員に一律で実施する。特定個人を狙わない
- 契約関係は変わる。定期・変更時の再確認を運用に入れる
- 該当=技術提供禁止ではない。提供する技術の側を先に判定する
- 記録では除外規定の根拠(合意書面・議決権比率)を必ず残す
さて、自社で誓約書を運用している場合、除外規定を適用した方の根拠資料は揃っているでしょうか。
次回は、みなし輸出のもう一つの論点、クラウドサービスは技術提供にあたるのかを扱います。役務通達には、この解釈が別紙として置かれています。


※ 特定類型の定義は役務通達(4貿局第492号)1(3)サによります。誓約書の様式・YES/NOチャートは経済産業省が公表しているものをご利用ください。本記事では様式そのものを掲載していません。
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