概要
輸出管理の条文を読むと、こんな文章に何度もぶつかります。
「……政令で定める特定の種類の貨物」 「……経済産業省令で定める仕様のもの」
読み進めるほど、どこを見ればいいか分からなくなる。これは読み手が悪いのではありません。そういう構造で作られているからです。
輸出管理の法令は4階建てになっていて、上の階には大枠だけが、下の階に具体的な中身が書かれています。「政令で定める」は、1段おりてくださいという案内表示なのです。


- 輸出管理の法令が4階建ての構造になっていること
- 「政令で定める」が「1段おりる」合図だという読み方
- マトリクス表が4階建てを横に並べた表であること
4階建ての地図

まず全体像です。上の図のとおり、1階が法律(外為法)、2階が政令(輸出令=貨物/外為令=技術)、3階が省令(貨物等省令ほか)、4階が通達・告示(運用通達・役務通達)です。
覚え方はこうです。
法律が骨格、政令がリスト、省令がスペック、通達が解釈
「上の階ほど抽象的、下の階ほど具体的」。
各階に何が書いてあるか
1階:法律(外為法)=「許可が要る」と決める階

外国為替及び外国貿易法、通称 外為法(がいためほう)。昭和24年の法律です。
ここには「輸出には許可が要る場合がある」という枠組みだけが書かれています。具体的に何が規制対象かは書いてありません。
覚えておきたい条文は3つです。上の図の左側にあるとおり、第48条第1項が貨物の輸出の許可、第25条第1項が技術の提供(役務取引)の許可、第55条の10が輸出者等遵守基準(社内体制の義務)です。
貨物は48条、技術は25条。まずこの2つを押さえてください。
2階:政令=「どんな品目か」のリスト
法律が「政令で定める」と言った先が、この階です。上の図の右側のとおり、貨物と技術で分かれています。輸出貿易管理令(輸出令)が貨物を扱い、別表第一に1〜16項のリスト。外国為替令(外為令)が技術を扱い、別表に技術のリストがあります。
ここで別表第一が登場します。1項(武器)から15項(機微品目)までがリスト規制、16項が補完的輸出規制の対象という構成です。
ただし、この階でもまだ「何ワット以上」といった数値は出てきません。
3階:省令=「スペック」を決める階

政令が「経済産業省令で定める仕様のもの」と言った先が、この階です。
主役は貨物等省令(正式名称は長いので通称で呼ばれます)。ここで初めて、
- 出力は何ワット以上か
- 精度は何ミクロン以下か
- 動作温度の範囲は
といった判定に直接使う数値が出てきます。該非判定の実質的な基準は、この階にあります。
4階:通達・告示=「言葉の意味」を決める階
条文には、日常語と意味が違う言葉が出てきます。「使用」「設計」「製造」。これらが何を指すのかを決めているのが通達です。上の図の右側のとおり、運用通達(輸出貿易管理令の運用について)が貨物、役務通達(4貿局第492号)が技術を扱います。
たとえば運用通達には「輸出令別表第1の解釈」という表があり、用語の意味が一つずつ定義されています。マトリクス表の「用語の意味」の欄は、ここから来ています。
実際にどう降りていくか

具体例が上の図です。①外為法 第48条第1項が「政令で定める」と言い、②輸出令 別表第一が「経済産業省令で定める仕様のもの」と言い、③貨物等省令でようやく数値が確定します。用語の意味が分からなければ、④運用通達の「解釈」の表まで降ります。
4段階おりて、ようやく判定できるわけです。
逆に言えば、いま自分が何階を読んでいるかを意識すれば迷いません。数値が知りたいなら3階、言葉の意味が知りたいなら4階です。
マトリクス表は「4階建てを横に並べた表」

ここまで読むと、マトリクス表の正体が見えてきます。
マトリクス表は、2階(輸出令)・3階(貨物等省令)・4階(解釈)を横一列に並べた表なのです。上の図のように、建物を横に倒したものだと思ってください。
階段を上下する手間を省くために作られた道具、というわけです。だから実務ではまずマトリクス表を見るのです。
条番号は変わることがある
最後に、実務上とても大事な注意です。
条番号は改正で動きます。
たとえば罰則。従来の解説書では「第69条の6」と紹介されることが多いのですが、2026年6月5日施行版では第69条の7・第69条の8に規定されています。
古い資料の条番号をそのまま引用すると、間違った条文を指してしまいます。条番号を書くときは、必ず最新の施行版で確認してください。
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まとめ
- 輸出管理の法令は4階建て。法律が骨格、政令がリスト、省令がスペック、通達が解釈
- 貨物は外為法48条1項、技術は25条1項。ここが出発点
- 「政令で定める」「省令で定める」は1段おりる合図
- 判定に使う数値は3階(貨物等省令)、言葉の意味は4階(通達)
- マトリクス表は、2〜4階を横に並べた表。だから実務で重宝される
- 条番号は改正で動く。最新の施行版で必ず確認する
条文を読んでいて迷ったら、「いま自分は何階にいるのか」と考えてみてください。それだけで、次にどこを見ればいいかが見えてきます。


- 次に読む:世界には4つの「約束ごと」があります — なぜ改正が多いのか、その源流
- あわせて読む:「リスト規制」と「補完的輸出規制」は何が違う? — 別表第一の1〜15項と16項の境目
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