日本を通らない貨物の取引(仲介貿易取引規制)は、契約書を見れば判断できます。

技術にも、同じ発想の規制があります。 そして、貨物より捉えにくい

経済産業省の説明を引きます。

外国において、非居住者に対して技術の提供を行う場合、その技術の提供が我が国の居住者によって行われるのではなく、居住者から指示を受けた非居住者によって技術が提供される、あるいは我が国の居住者が外国において技術を取得し、そのまま別の外国で提供を行うような、我が国の国境外で行われる技術取引(いわゆる「技術の仲介行為」)についても、許可の対象となります。

2つの型があります。

型①:日本の人が指示して、外国の人が渡す

日本の会社(居住者)→ 指示 → A国の人 → 技術提供 → B国の人

日本の人は、技術を渡していません。指示しただけです。

型②:外国で取得して、別の外国で渡す

日本の会社の人が A国で技術を取得 →(日本に持ち帰らず)→ B国で提供

日本の国境を、技術は一度も越えていません。

みなとくん船長、指示しただけで対象ですか
あんぼう船長そうじゃ。動かしておるのは日本の者じゃからな
そして、実務で混同しやすい点を先に。根拠条文が違います。
根拠条文
貨物の仲介貿易取引規制 外為法 第25条第4項
技術の仲介取引 ★外為法 第25条第1項

この記事は、現職で輸出管理・貿易実務に携わっている方に向けて書いています。

この記事を読むと、あなたの実務はこう変わります

  • 「うちは何も送っていない」で終わらせなくなります
  • 対象外になる条件(除外)が分かり、過剰にならずに済みます
  • 契約書がない規制を、社内でどう拾うかの関門が持てます
  • 記録に何を残せば後から説明できるかが分かります

この記事で扱うこと

この記事の後半では、判断と運用に入ります。

  • 許可が必要になる範囲:1の項は無条件/2〜16の項はグループAを除く地域間+おそれがある場合
  • ★核心は「除外」同一の外国内/同一国の非居住者間での取引は含まれないまず「国をまたいだか」で切るという判断順序。ここで外れるケースが実は多い
  • ★見落としやすい実務パターン3つ:現地法人への「渡しておいて」/出張先で受領し別の出張先で提供/拠点間の技術移管。いずれも輸出管理部門からは見えない
  • 貨物との対比表:判断の起点/痕跡/拾い方/除外。貨物は契約書、技術はメール・議事録・指示書
  • ★社内で拾うための4つの関門:特に出張申請に足す2問目(「前回以降、別の国で受領した技術を持っているか」)が型②を拾う唯一の現実的手段
  • 関係法令:「技術版のおそれ告示」の位置づけ
  • ★記録に残す8項目:特に「日本側の関与の内容」(指示したのか、報告を受けただけか)。あとから思い出せない
  • 判断に迷いやすい4点を正直に挙げたうえで、相談窓口の使い方

根拠条文が違います

仲介の許可は、同じ条文?
仲介の許可は、同じ条文?

実務で混同しやすいので、先に整理します。上の図のように、貨物の仲介貿易取引は外為法 第25条第4項技術の仲介取引は★外為法 第25条第1項です。

Q&Aにも、こう書かれています。

外国相互間での技術の提供を仲介することは、仲介貿易取引許可の対象となりますか。法第25条第1項の技術提供の許可の対象となることがあります。

「仲介貿易取引許可(25条4項)ではなく、技術提供の許可(25条1項)」申請の区分も、根拠も別です。


1. 許可が必要になる範囲

許可が必要になる範囲
許可が必要になる範囲

経済産業省の説明を整理します。

許可が必要となるのは

【第1の項に該当する技術】
外為令別表の「第1の項」に該当する技術の場合

【2の項〜16の項に該当する技術】
輸出令別表第三の地域を除く地域間で技術を移転する場合であって、
大量破壊兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合

貨物の仲介貿易取引と、同じ型です。

1の項     → 無条件
2〜16の項 → グループAを除く地域間 + おそれがある場合

2. 核心は「除外」です

外国どうしなら、全部対象?
外国どうしなら、全部対象?

この記事でいちばんお伝えしたいのが、この一文です。

(同一の外国内、同一国の非居住者間での取引は含まれない)

2つの除外が入っています。

除外①:同一の外国内

【対象になる】
A国 → B国   ★国をまたぐ移転

【対象にならない】
A国 → A国   ★同じ国の中

条文の要件が「地域間で技術を移転する場合」なので、移転していなければ対象外、という理屈です。

除外②:同一国の非居住者間

【対象にならない】
A国にいる非居住者 → A国にいる非居住者

同じ国にいる非居住者どうしのやりとりは含まれません。

この2つの除外が、実務では効きます。

【判断の順序】
① 技術が国をまたいで動いたか
   → NO なら、この規制の対象外
② 動いた場合、船積側・受け側の地域は
   → 両方が別表第三以外か
③ おそれがあるか

①で切れるケースが、実はかなりあります。

3. 見落としやすい実務パターン

見落としやすい3つの型
見落としやすい3つの型

型①(指示型)が、いちばん捉えにくい。具体例で示します。

パターンA:現地法人への「渡しておいて」

日本本社 →(メールで指示)→ A国子会社
                              ↓ 図面を提供
                           B国の顧客

日本本社は、図面を送っていません。「A社に渡しておいて」と言っただけ。

しかし、指示を出したのは居住者です。型①に当たりうる構造です。

社内メールの中に潜んでいるので、輸出管理部門からは見えません。

パターンB:出張先で受け取り、次の出張先で渡す

社員が A国出張で技術資料を受領
    ↓(日本に戻らず)
B国出張で、その資料を説明

型②です。日本を経由していません。

出張申請と輸出管理を紐づけていても、「往路の技術提供」しか見ていないと拾えません。

パターンC:海外拠点間の技術移管

A国工場 → B国工場 へ製造技術を移管
(日本本社が計画・指示)

グローバルの生産再編でよく起きます。 日本からは何も出ていませんが、動かしているのは日本本社です。

4. 技術特有の難しさ

契約書を見れば分かる?
契約書を見れば分かる?

貨物の仲介貿易取引と比べると、こうなります。

貨物の仲介貿易 技術の仲介取引
判断の起点 契約上の立場(売り・買い双方の当事者か) ★指示・関与の実態
痕跡 契約書・インボイス ★メール・議事録・指示書
拾い方 受注・与信フロー ★人の動きと社内連絡
除外 物流のみ/予約/取次ぎ ★同一の外国内/同一国の非居住者間

貨物は契約書を見れば分かります。技術は、契約書がないことのほうが多い。

ここが、この規制のいちばん厄介なところです。

5. 社内で拾うための現実的な方法

「全部拾う」は無理です。関門を置く場所を絞ります。

【① 海外出張申請に1問足す】
□ 「今回の出張で、技術資料の受領または提供の予定はありますか」
□ ★「前回以降、別の国で受領した技術を持っていますか」
   → 型②を拾う

【② 海外拠点への指示に関門を置く】
□ 図面・仕様書・製造条件を「送っておいて」と依頼するとき、
  輸出管理の確認を通す
□ ★指示メールのテンプレートに確認欄を入れる

【③ 生産移管・技術移管のプロジェクトに組み込む】
□ 拠点間の技術移管は、企画段階で輸出管理を関与させる
□ ★プロジェクト起票の必須項目にする

【④ 契約の締結フローに入れる】
□ 技術支援契約・ライセンス契約の締結時に確認
□ 特に「再提供を認める条項」がある場合

★①の2問目が効きます。「前回以降、別の国で受領した技術を持っているか」。型②を拾う唯一の現実的な手段です。

6. 関係法令

経済産業省が挙げているものです。

□ 外国為替令
□ 貿易関係貿易外取引等に関する省令
□ 貿易関係貿易外取引等に関する省令 第9条第2項第七号イの規定により
  経済産業大臣が告示で定める提供しようとする技術が
  核兵器等の開発等のために利用されるおそれがある場合

3つ目の告示が「おそれ」の中身を定めています。名前が長いですが、「技術版のおそれ告示」と覚えておけば引けます。

なお、技術の提供の細かい取扱いは役務通達にも規定があります。判断に迷う場面では、そちらも併せて確認してください。

7. 記録に何を残すか

技術の仲介取引は、あとから説明できるかどうかが勝負です。

【案件ごとに残すもの】
□ 技術の内容と該当項番(または非該当の根拠)
□ ★誰が、誰に、どこで提供したか
□ ★日本側の関与の内容(指示したのか、していないのか)
□ 技術が移転した地域(送り側・受け側)
□ ★同一の外国内でないことの確認
□ おそれの有無と、その判断根拠
□ 参照した法令・通達の版
□ 判断日・判断者

★「日本側の関与の内容」を残すのがコツです。

「指示したのか」「報告を受けただけか」「知らなかったか」。この違いが、対象かどうかを分けます。あとから思い出そうとしても出てきません。

8. 判断に迷ったら

この領域は、線引きが難しいです。

【迷いやすい点】
□ 「指示」とはどこまでを指すのか
□ 承認したが指示はしていない場合は
□ 情報共有と技術提供の境目は
□ グループ内での標準展開はどう扱うか

これらは、公表資料だけでは決めきれません。

経済産業省には相談窓口があります。個別の事案は相談してください。 それが制度の想定している使い方です。

「分からないまま流す」がいちばん避けるべき対応です。

まとめ

  • 技術にも仲介取引の規制がある。日本の国境を越えていなくても対象になりうる
  • 2つの型:①日本の人が指示して外国の人が渡す ②外国で取得して別の外国で渡す
  • ★根拠条文は法25条1項(技術提供の許可)。貨物の仲介貿易取引=25条4項とは別
  • 範囲は1の項は無条件/2〜16の項はグループAを除く地域間+おそれがある場合
  • ★核心は除外同一の外国内、同一国の非居住者間での取引は含まれない
  • ①「国をまたいだか」で切れるケースが多い。まずそこを見る
  • 実務パターンは現地法人への「渡しておいて」/出張先での受領と別の出張先での提供/拠点間の技術移管
  • 貨物は契約書で分かるが、技術は契約書がないことが多い。痕跡はメール・議事録・指示書
  • 拾う関門は①出張申請の2問(★「前回以降、別の国で受領した技術はあるか」) ②海外拠点への指示 ③技術移管プロジェクト ④契約締結フロー
  • 記録には★日本側の関与の内容(指示したのか、していないのか)を残す
  • 線引きが難しい領域。迷ったら経済産業省へ相談する

これで、積替規制・仲介貿易取引規制・技術の仲介取引の3本が揃いました。

共通しているのは「日本から出ていないのに対象」という構造です。輸出管理を「日本から出るもの」だけで見ていると、丸ごと抜けます

さて、自社の海外拠点どうしの技術のやりとりは、誰かが見ているでしょうか。

みなとくん船長、契約書がないというのは、確かに厄介ですね
あんぼう船長じゃからな、残すんじゃ。あとで思い出せんことは、書いておくしかないんじゃ
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※ 内容は経済産業省「仲介貿易・技術取引規制」(https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo05.html ・2026年8月2日確認)およびQ&Aによります。制度・運用は改正されることがあります。 実務では必ず 経済産業省 安全保障貿易管理 で最新の内容をご確認ください。本記事で挙げた実務パターンは考え方の例示であり、個別事案の結論を示すものではありません。 判断に迷う場合は経済産業省へご相談ください。

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