補完的輸出規制でいちばん難しいのが客観要件です。

リスト規制なら、仕様書と省令を突き合わせれば答えが出ます。ところが客観要件は違います。

用途や需要者から見て、兵器開発などに使われる「おそれ」があると輸出者自身が判断できる場合

「おそれ」を自分で判断する。ここで手が止まります。

そして判断が属人的になり、担当者によって結論がぶれるこの状態がいちばん危険です。

じつは、判断の順番はすでに用意されています。経済産業省が手続きフロー図客観要件確認シートを公表しているからです(令和7年10月9日施行対応)。

みなとくん船長、"おそれ"って、どこまで疑えばいいんでしょうか
あんぼう船長そこはな、感覚で決めるものではないんじゃ。潰す順番が決まっておる
この記事は、現職で輸出管理・貿易実務に携わっている方に向けて書いています。

この記事を読むと、あなたの確認はこう変わります

  • 「おそれ」を感覚で測るのをやめ、決まった問いを順に潰す形になります
  • 多くの案件が早い段階で終わるようになり、確認の負荷が下がります
  • 判定の向きが逆になっている箇所を把握でき、結論の反転を防げます
  • 前倒しで仕込む部分が分かり、案件ごとの作業が「仕向地を見るだけ」に近づきます

この記事で扱うこと

この記事の後半では、その順番を実際の手順に落とし込みます。

  • 3つの関門:品目・インフォーム・仕向地 → HSコードの足切り → 用途・需要者。上から順に潰す理由
  • 関門1の3つの問い:リスト規制該当/インフォーム/グループA27か国。多くの案件はここで終わる
  • 関門2でHSコードが効く:16項中欄の類の範囲通関のために調べた番号がそのまま使えるしくみ
  • 関門3の2系統:大量破壊兵器等(3-1用途/3-2需要者/3-3ガイドラインは向きが逆)と通常兵器
  • なぜ3-3だけ逆なのか:「明らかに問題ないと言えるか」を聞いているから
  • 通常兵器の新設パターン:「一般国+特定品目」(2025年10月9日から)
  • 「おそれ」の記録の残し方:「なんとなく大丈夫そう」を残さないための5項目
  • 判断に迷ったときの分岐表:用途が曖昧/需要者が不明/似た名前がある/取引経路が複雑
  • 前もって仕込むこと:製品マスタへのHSコード整備など。案件ごとの作業を減らす仕組み

順番はすでに用意されています

「おそれ」は感覚で決めるもの?
「おそれ」は感覚で決めるもの?

経済産業省は、手続きフロー図客観要件確認シート(参考様式)を公表しています。令和7年10月9日施行対応版です。

この2つに沿えば、判断は再現可能になります。

  • フロー図=どういう順番で判断するか
  • 確認シート=各段階で何を記録するか

「おそれを感覚で測るのではなく、決まった問いを順に潰す」


1. 全体の流れ:3つの関門

確認は3つの関門を通る
確認は3つの関門を通る

確認は大きく3段階です。各段階で「許可申請不要」に到達すれば、そこで終わります。

【関門1】品目・インフォーム・仕向地
     ↓ 抜けたら
【関門2】HSコードによる足切り
     ↓ 抜けたら
【関門3】用途・需要者の確認
     ↓ 懸念あり
   許可申請

上から順に潰すことが大切です。関門1で終われるものを、いきなり関門3から検討すると時間を浪費します。

2. 関門1:3つの問いを順に

関門1は3つの問いで終わる
関門1は3つの問いで終わる

問い①:リスト規制に該当するか

輸出令別表第1/外為令別表の1〜15項のいずれかに該当するか

該当する → リスト規制の手続きへ(この記事の対象外) 該当しない → 問い②へ

補完的輸出規制は、リスト規制で拾えなかったものを扱う仕組みです。まずここで振り分けます。

問い②:インフォームを受けているか

経済産業省からインフォームを受けたか

受けた許可申請が必要。ここで確定します 受けていない → 問い③へ

インフォームは通知なので、判断の余地がありません。受けていれば即決です。

問い③:仕向地はグループAか

仕向国は輸出令別表第3の国(グループA)

グループA許可申請不要。ここで終了 それ以外 → 関門2へ

グループAは27か国。確認シートには国名が注記として列挙されているので、手元で照合できます。

多くの案件はここで終わります。 欧米向け中心の会社なら、大半の案件が関門1を抜けません。

3. 関門2:HSコードで足切りする

2025年10月の改正で加わった段階です。

HSコードから、当該貨物・技術が輸出令別表第1/外為令別表の16項の中欄に該当しないことが明らかか

明らか(=該当しない)許可申請不要 明らかでない → 関門3へ

16項中欄に対応するHSの範囲は、関税定率法別表の第25〜40類、第54〜59類、第63類、第68〜93類、第95類です。

自社製品のHSコードがこの範囲外なら、そこで確認は終わります。

ここが効率化の要です

HSコードは輸出申告のために必ず調べる番号です。つまり

通関のために調べたHSコード
      ↓ そのまま使える
補完的輸出規制の足切り判断

既存業務のデータが、そのまま判断材料になります。 製品マスタにHSコードを持っているなら、一括で振り分けられます。

なお、特定品目に当たりうる場合は四桁または六桁まで確認します。上二桁だけでは足りません。

4. 関門3:用途・需要者の確認

ここが本丸です。大量破壊兵器等通常兵器で系統が分かれます。

① 大量破壊兵器等:3つの下位リスト

3つのリストは同じ向き?
3つのリストは同じ向き?

上の図のとおり、3-1 用途確認リスト3-2 需要者確認リストは「はい」が一つでもあれば懸念、3-3 明らかガイドラインは「いいえ」が一つでもあれば懸念です。

3-3だけ向きが逆です。ここを取り違えると結論が反転します。

なぜ逆かというと、3-3は「明らかに問題ないと言えるか」を確認するリストだからです。「いいえ」=明らかとは言えない、となります。

② 通常兵器:2つのパターン

仕向国が別表第3の2の国、または一般国貨物が特定品目、もしくは技術が特定品目の技術である場合に限る)か

パターンA:別表第三の二(国連武器禁輸国・地域10か国・地域)
   → 従来から対象

パターンB:一般国 かつ 特定品目
   → 2025年10月9日から追加

パターンBが新設分です。特定品目12件(うち6件が工作機械群)に当たるかを確認します。

5. 「おそれ」をどう記録するか

判断がぶれないようにするコツは、チェックの結果を必ず書き残すことです。

□ 各問いへの回答(はい/いいえ)
□ 「はい」とした問いについて、その根拠となった事実
□ 確認に使った資料(契約書/引合い書/取引先のウェブサイト等)
□ 確認した日
□ 該非確認責任者・統括責任者の確認

「なんとなく大丈夫そう」を残さない。 事実に基づいて「いいえ」と答えたなら、その事実を書きます。

6. 判断に迷ったときの動き方

状況 どうするか
用途の説明が曖昧 書面で用途を確認する。口頭では残らない
需要者の実体が不明 所在地・代表者・事業内容を確認。ウェブサイトが無い企業は要注意
外国ユーザーリストに似た名前がある 別名(Also Known As)まで確認する。同名他社の可能性も検討
取引経路が複雑 最終需要者まで遡って確認する。仲介者で止めない
どうしても判断できない 経済産業省へ事前相談する

迷ったら止める、ではありません。迷ったら確認するです。確認して事実が固まれば、判断は自ずと決まります。

7. 社内の運用に落とす

前もって仕込んでおくこと
前もって仕込んでおくこと

個々の案件で回すだけでなく、仕組みとして持つと負荷が下がります。

【前もってやっておくこと】
□ 製品マスタにHSコードを持たせる(関門2の一括振り分け用)
□ 特定品目12件に当たる自社製品を洗い出しておく
□ グループA27か国の一覧を確認シートに埋め込んでおく
□ 外国ユーザーリストを取り込み、更新の仕組みを決める

【案件ごとにやること】
□ フロー図に沿って関門1→2→3
□ 確認シートに記録
□ 責任者の確認を得る

前もってやっておく部分を仕込めば、案件ごとの作業は大幅に減ります。

まとめ

  • 客観要件は感覚ではなく、決まった問いを順に潰すもの
  • フロー図と確認シートが公表されている(令和7年10月9日施行対応)
  • 関門1:リスト規制該当 → インフォーム → グループA。多くの案件はここで終わる
  • 関門2HSコードで足切り。16項中欄のHS範囲外なら終了。通関データがそのまま使える
  • 特定品目に当たりうるなら四桁・六桁まで確認
  • 関門3:大量破壊兵器等(3-1用途/3-2需要者/3-3ガイドラインは向きが逆)と通常兵器の2系統
  • 通常兵器の新設分は「一般国+特定品目」
  • 判断根拠を必ず書き残す。「なんとなく」を残さない
  • 迷ったら止めるのではなく、確認する
  • 製品マスタのHSコード整備など、前倒しで仕込むと案件ごとの負荷が減る

さて、直近の案件で、どの関門で判断が終わりましたか。

関門3まで毎回進んでいるとすれば、関門1・2の振り分けが効いていない可能性があります。

次回は、みなし輸出のもう一つの論点、特定類型①②③を実務でどう確認するかを扱います。

みなとくん船長、"迷ったら確認する"って、当たり前のようで抜けていました
あんぼう船長そうじゃな。止めるか進めるかで悩む前に、事実を集める。それが早道でな
---

※ 手順はフロー図・確認シート(令和7年10月9日施行対応)の構成によります。実際の運用にあたっては、経済産業省が公表している原本をご確認ください。

改正を見落とさないために(無料)

安全保障貿易の制度は、たびたび改正されます。安貿ナビでは、経済産業省・CISTEC・米国EARの新着を確認し、実務への影響をメールでお届けしています。

無料で登録する

社内の輸出管理教育をご検討の企業のご担当者さまには、あわせて資料をお送りしています。