企業の該非判定は、こう進みます。

  • 製品がある → 仕様書・カタログにスペックが書いてある → 省令の数値と突き合わせる

大学では、この前提が崩れます。

判定する対象は、こういうものです。

  • 自作の実験装置
  • 研究の途中で得たデータ
  • まだ論文になっていない知見
  • 口頭で説明する内容

仕様書が、そもそも無い。

仕様書が、そもそも無い
仕様書が、そもそも無い

そして、知識が分かれています。経済産業省の実務参考資料は、現場の声をそのまま載せています。

担当者側:「提供する技術の内容は教員本人しか分かりません。そのため、正しく判定できているのか不安です

★どちらも一人では判定できない。

みなとくん船長、仕様書がないとどうするんですか
あんぼう船長知っておる人に聞くしかないんじゃ。そこが企業との、いちばんの違いでな
この記事は、現職で輸出管理・貿易実務に携わっている方に向けて書いています。

この記事を読むと、あなたはこう変わります

  • 取引先が大学のとき、先方の事情が読めるようになります
  • 共同研究の契約段階で決めるべきことが分かります
  • 自社の研究開発部門の手順を見直せます
  • 仕様書がない対象をどう判定するかの型が手に入ります

この記事で扱うこと

入口となる論点を整理したうえで、実際に動ける形にします。

  • ★判定の入口は「事前確認シート」:企業の判定依頼書との決定的な違い
  • ★合体マトリクス表を使う理由①事前準備 ②該非判定キーワードの抽出 ③合体マトリクス表における検索言葉から入る
  • ★「はみ出し技術」の問題が大きい:自作装置は既存項番に当てはまらないが、規制対象の性能を出せてしまう。「該当製品がないから非該当」が最も危ない
  • ★例外適用確認が独立した工程になっている理由:公知例外・基礎科学例外がなければ大学の活動は止まる
  • ★企業の実務者が知っておくべき3場面:①大学へ納入するとき(判定書が精査される) ②共同研究(契約段階で公表範囲を決める) ③人の派遣・受入れ
  • ★企業の研究開発部門にも同じ課題がある:製造部門の仕組みをそのまま当てはめると回らない。事前確認シート方式への切り替え

構造的な問題:知識が分かれています

経済産業省の実務参考資料は、現場の声をそのまま載せています。

教員側

輸出管理って、結局は輸出管理担当者の仕事だと思ってしまい、自分がどこまで関わればいいのか迷います

輸出管理担当者側

提供する技術の内容は教員本人しか分かりません。そのため、正しく判定できているのか不安です

  • 技術の中身が分かるのは → 教員
  • 制度が分かるのは → 輸出管理担当者
  • どちらも一人では判定できない
知識が、2つに分かれている
知識が、2つに分かれている

企業なら、技術部門が該非判定部門を兼ねます。大学では、教員は研究者であって、輸出管理の担当ではありません


1. 判定の入口が「事前確認シート」

入口は、教員が書く1枚
入口は、教員が書く1枚

大学の実務では、教員が最初に書く紙があります。

流れ

  • 貨物の輸出・技術の提供を伴う学術活動を行う前に
  • 教員が「事前確認シート」を記入
  • 輸出管理担当部署に相談・申請
  • 担当部署と連携して、貨物・技術の情報を収集
  • 該非判定

企業の「該非判定依頼書」に近い役割ですが、決定的な違いがあります。

企業

  • 営業が案件情報を出す → 技術部門が判定する

大学

  • 教員が案件情報も、技術の中身も、両方出す

教員から情報を引き出せるかどうかが、判定の質を決めます。

2. 合体マトリクス表を使う

大学向け資料では、判定に合体マトリクス表を使うことが明示されています。

該非判定のプロセス

  • ① 事前準備
  • ② 該非判定キーワードの抽出
  • ③ ★合体マトリクス表における検索

②の「キーワードの抽出」が、大学ならではの工程です。

企業

  • 型式 → 仕様書 → 該当項番

大学

  • 研究内容の説明
  • キーワードを抜き出す
  • (例:レーザー、真空、遠心、耐食、精度…)
  • 合体マトリクス表で検索
  • 当たりをつけた項番の省令を読む

言葉から入るわけです。

なぜ「合体」マトリクス表か

合体マトリクス表は、貨物と技術が横に並んでいる表です。

大学で扱うのは技術が中心ですが、技術は貨物に紐づいて規制されています

  • 装置(貨物)が該当する
  • その設計・製造・使用に必要な技術も規制対象になりうる

装置から技術へ辿る必要があるため、貨物と技術が並んだ表が要る、という理屈です。

企業でも同じですが、大学ではこの往復がより頻繁に起きます。

3. 「はみ出し技術」の問題が大きい

該当する製品がないから非該当、が危ない
該当する製品がないから非該当、が危ない

企業より大学で深刻になるのが、これです。

原則

  • リスト規制に該当する貨物に関連する技術が規制対象

注意

  • 非該当貨物の製造技術(はみ出し技術)でも規制されることがある

大学の研究は、「既存の装置では作れないものを作る」ことが多い。

  • 自作した実験装置は、市販品ではない
  • 既存の項番にぴったり当てはまらない
  • でも、規制対象の性能を出せてしまう

「該当する製品がないから非該当」という判断が、いちばん危ない領域です。

4. 例外適用確認が独立した工程になっている

工程が、ひとつ多い
工程が、ひとつ多い

企業の該非判定フローには、通常こういう工程はありません。

大学の手続きの流れ

  • 事前確認シート・審査票の記入
  • 該非判定(合体マトリクス表)
  • 相手先の確認(非居住者か/特定類型か)
  • 懸念情報確認(提供内容・相手先・用途)
  • 例外適用確認
  • 公知の技術
  • 基礎科学分野の研究活動
  • 取引審査
  • 許可申請(該当する場合)

★例外適用確認が、独立した工程として置かれています。

理由は明快です。大学の活動の多くが、公知例外・基礎科学例外で処理されるからです。

  • 論文発表 → 公知例外(公知化のための提供)
  • 学会発表 → 公知例外
  • 公開講義 → 公知例外
  • 原理の探究 → 基礎科学例外

この2つの例外がなければ、大学の活動は止まります。

だから、例外の線引きが、大学の輸出管理でいちばん難しい判断になります。

線引きの詳細は「「公知の技術」はどこまでか」で扱っています。

★「公知だから大丈夫」と教員が自己判断すると事故になります。 ガイダンスも、担当部署が確認する運びを示しています。

5. 企業の実務者が知っておくべきこと

取引先が大学の場合、こういう場面が出てきます。

① 大学へ装置を納入するとき

  • 大学側にも輸出管理の手続きがある
  • ★大学から該非判定書を求められる
  • 大学の担当部署が、メーカー判定を精査することがある

ヒヤリハット事例集には、大学の輸出管理担当部署がメーカーの該非判定書を精査したところ、判定に誤りがあり「該当」であることが判明したという例が載っています。

メーカー側の判定が、大学に見られています。

② 大学と共同研究をするとき

  • 成果の公表方針が、輸出管理に直結する
    • 公知化するのか、しないのか
  • ★「どこまで公開するか」を契約段階で決める
  • 留学生・外国人研究者が参加する可能性
    • 非居住者・特定類型の確認

★契約段階で公表範囲を決めておく。これが、後の判断を楽にします。

③ 大学へ技術者を派遣するとき/受け入れるとき

  • 派遣先の研究室に非居住者がいないか
  • 受け入れる大学院生が非居住者・特定類型に当たらないか

6. 企業の研究開発部門にも同じ問題があります

最後に、社内の話です。

大学の課題は、企業の研究開発部門にもそのまま当てはまります。

  • 試作品・自作装置に仕様書がない
  • 研究者しか中身を知らない
  • 論文発表・学会発表がある
  • 共同研究先に非居住者がいる
  • ★「はみ出し技術」の判断が必要

製造部門の該非判定の仕組みを、そのまま研究開発部門に当てはめると回りません。

製造部門向け

  • 製品マスタ → 型式 → 判定書

研究開発部門向け

  • 事前確認シート方式
    • 何を、誰に、どこで提供するか
    • キーワードから合体マトリクス表を引く
    • 例外適用の確認を工程に入れる

大学向けの資料は、企業の研究開発部門の手順を作るときの、よい下敷きになります。

まとめ

  • 大学の該非判定は、★判定対象に仕様書がないところから始まる
  • 技術の中身が分かるのは教員、制度が分かるのは担当者。どちらも一人では判定できない
  • 入口は★事前確認シート。教員が案件情報と技術の中身の両方を出す
  • 判定は①事前準備 ②★該非判定キーワードの抽出 ③合体マトリクス表における検索
  • 合体マトリクス表を使うのは、装置(貨物)から技術へ辿る必要があるため
  • ★「はみ出し技術」の問題が大きい。自作装置は既存項番に当てはまらないが、規制対象の性能を出せてしまう。「該当製品がないから非該当」が最も危ない
  • ★例外適用確認(公知の技術/基礎科学分野の研究活動)が独立した工程になっている。これがないと大学の活動は止まる
  • 公知かどうかを教員が自己判断すると事故になる。担当部署が確認する
  • 企業側が知っておくこと:①納入時に大学から判定書を求められ、精査される ②共同研究は★契約段階で公表範囲を決める ③人の出入りで非居住者・特定類型の確認
  • ★企業の研究開発部門にも同じ課題がある。製造部門の仕組みをそのまま当てはめると回らない

さて、自社の研究開発部門の該非判定は、製造部門と同じ手順でやっていないでしょうか。

みなとくん船長、仕様書がない世界の話は、うちの研究所にも当てはまりそうです
あんぼう船長じゃろうな。紙が無いところほど、聞き取りが要るんじゃ
次に読むなら、こちらをどうぞ。

※ 内容は経済産業省「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関用)第五版」および「研究者を守る安全保障貿易管理:教員・研究者が押さえるべきポイント」(令和8年4月)によります。制度・運用は改正されることがあります。 最新の内容は 経済産業省 大学・研究機関向けページ でご確認ください。事例は「大学・研究機関 ヒヤリハット事例集」の要旨です。

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