外為法から始め、EARを合流させる
外為法から始め、EARを合流させる

ここまで、日本の外為法とアメリカのEARを別々に見てきました。

実務では、この2つを同じ案件について同時に判断することになります。そのとき問題になるのが順番です。

結論から言えば

日本の外為法から始め、EARを途中で合流させる

これがいちばん無理がありません。理由は単純で、日本企業のすべての輸出案件は外為法の対象ですが、EARの対象になるのは一部だけだからです。

みなとくん船長、両方を最初から見ようとすると混乱するんです
あんぼう船長そうじゃろうな。二本立てで走らせるより、一本の流れに合流させるほうが早いんじゃ
2つの制度は発想は似ていますが、対応は1対1ではありません。項番とECCN、別表第三とカントリーグループ、特例とLicense Exception、似ているぶん、対応表を作りたくなります。それが事故のもとです。

この記事は、現職で輸出管理・貿易実務に携わっている方に向けて書いています。

この記事を読むと、あなたの判断はこう変わります

  • 日米どちらから手をつけるかが決まります
  • 案件が来てから調べていては間に合わない項目が特定できます
  • 同じことを2回聞くという現場の負荷が減ります
  • 社内で「グループA」と言ったときの取り違えがなくなります

この記事で扱うこと

この記事の後半では、実際に回すための手順に入ります。

  • ★合流させる判断フロー STEP 0〜7:案件情報の収集から記録まで。STEP 3が分岐点(EARの検討が要るかどうか)
  • STEP 0が最重要な理由米国原産品・技術の含有が分からないと判断できない。案件が来てから調べていては間に合わない
  • 前もって整備する5項目:BOM/米国原産部品の識別/組み込みソフトの出所/技術のライセンス元/サプライヤーから取得したECCN。製品マスタに列を持つのが最も効く
  • ★確認シートを日米で1枚にまとめる:重なる確認項目の対照表つき。聞き取りは1回、照合は複数リスト
  • 用語の呼び分け表:別表第三/カントリーグループA、項番/ECCN、みなし輸出/deemed reexport、特例/License Exception、そして「リスト」は必ず名前で言う
  • 日米に共通する落とし穴5つ:リストにないから大丈夫/モノは大丈夫で終わる/技術を忘れる/アフターサービスを忘れる/リストの更新忘れ
  • どちらが厳しいかは場面による:EARが広く及ぶ面3つ、日本が押さえている面3つ
  • 1案件1ファイルの記録項目日米両方の版(施行日/issue date)を必ず残す

2つの制度の対応関係

項番とECCNの対応表は作れない
項番とECCNの対応表は作れない

まず全体像を並べます。

日本(外為法) 米国(EAR)
対象の考え方 日本から出す行為 モノに規制が付いてくる(subject to the EAR)
品目の分類 輸出令別表第一の項番 ECCN
分類表 マトリクス表 CCL(Part 774)
仕向地の区分 別表第三(グループA27か国)ほか カントリーグループ(202か国・A/B/D/E)
リスト外の規制 補完的輸出規制(16項ほか) EAR99でもエンドユーザー規制が及ぶ
相手の規制 外国ユーザーリスト等 Entity List(Part 744)
許可の免除 少額特例・無償特例ほか 許可例外27種(Part 740)
技術の扱い 外為令別表・役務通達 ECCNのD(ソフト)・E(技術)

発想は似ていますが、対応は1対1ではありません。 項番とECCNの対応表を作ろうとしないでください。別の体系です。


1. 合流させる判断フロー

合流させる判断フロー(STEP 0〜7)
合流させる判断フロー(STEP 0〜7)

実務で回す形にすると、こうなります。

【STEP 0】案件情報を集める
  □ 品目(型式・仕様)
  □ 仕向地
  □ 輸入者・最終需要者
  □ 最終用途
  □ 提供する技術・役務(据付・保守・研修 等)
  □ ★米国原産品・米国原産技術の含有 ← ここでEARの要否が決まる
        ↓
【STEP 1】日本:該非判定
  □ マトリクス表で項番を確定(複数項該当を確認)
  □ 貨物と技術の両方
        ↓
【STEP 2】日本:補完的輸出規制
  □ 3つの関門(品目・インフォーム・仕向地/HSコード/用途・需要者)
        ↓
【STEP 3】★EAR該当性の判断 ← ここで合流
  □ STEP 0で米国原産品・技術の含有が確認されたか
     → 含まれない → EARの検討は不要
     → 含まれる   → STEP 4へ
        ↓
【STEP 4】EAR:de minimis
  □ 仕向地でしきい値を決める(E:1・E:2なら10%、他は25%)
  □ ★除外品目(§734.4(a))に当たらないか
        ↓
【STEP 5】EAR:分類と仕向地
  □ ECCNを確認(サプライヤーに問い合わせ)
  □ Country Chartで許可要否
  □ 許可例外(§740.2 → 個別条文)
        ↓
【STEP 6】相手と用途の確認 ← 日米を1枚に
  □ 外国ユーザーリスト(日本)
  □ Entity List・SDN List(米国)
  □ 用途・需要者の確認
        ↓
【STEP 7】許可の要否を確定し、記録

STEP 3が分岐点です。ここで「EARの検討が要るか」が決まります。

2. STEP 0が最重要です

米国原産品の含有は前もって整備する
米国原産品の含有は前もって整備する

多くの会社でつまずくのが、STEP 0の最後の項目です。

米国原産品・米国原産技術の含有

これが分からないと、STEP 3で判断できません。そして案件が来てから調べていては間に合いません

【前もって整備すること】
□ 製品ごとの部品表(BOM)
□ 米国原産部品の識別
□ 組み込みソフトの出所
□ 製造に使っている技術のライセンス元
□ 米国サプライヤーから取得したECCN

製品マスタに「米国原産品の有無・含有割合・ECCN」の列を持つ。これが最も効きます。

一度整備すれば、案件ごとの判断は「その製品はEAR対象か」を引くだけになります。

3. STEP 6は1枚にまとめられます

聞き取りは1回、照合は複数リスト
聞き取りは1回、照合は複数リスト

日本の客観要件確認とEARのエンドユース確認は、聞くべきことがかなり重なります

確認項目 日本 米国
最終需要者は誰か
事業内容と品目が釣り合うか
最終用途は何か
懸念リストに載っていないか 外国ユーザーリスト Entity List/SDN List
用途の説明に不自然な点はないか
取引経路・支払条件に不審な点はないか

確認シートを日米で分けると、現場は同じことを2回聞くことになります。

【推奨】
確認シートを1枚にし、
「照合したリスト」の欄を複数持たせる
   □ 外国ユーザーリスト(版:      )
   □ Entity List(版:      )
   □ SDN List(版:      )

これで聞き取りは1回、照合は複数という形になります。

4. 用語の混同を避ける

社内で混乱が起きやすい言葉を、あらかじめ決めておいてください。

紛らわしい言葉 呼び分け方の例
グループA 日本=「別表第三」/米国=「カントリーグループA
項番/ECCN 日本=「項番」/米国=「ECCN」。混ぜない
みなし輸出 日本=「みなし輸出」/米国=「deemed reexport
特例/許可例外 日本=「特例」/米国=「License Exception
リスト どのリストか必ず明示(外国ユーザーリスト/Entity List/SDN List/CCL)

「リストに載っていました」だけでは、どのリストか分かりません。 社内の言葉を決めるだけで、事故が減ります。

5. 両方に共通する落とし穴

日米どちらでも起きる誤解を、まとめて確認しておきます。

落とし穴 日本 米国
「リストに載っていないから大丈夫」 補完的輸出規制がある EAR99でもエンドユーザー規制が及ぶ
「モノは大丈夫」で終わる 用途・需要者の確認が要る Part 744が別次元で効く
貨物だけ見て技術を忘れる 外為令別表・役務通達 ECCNのD・E
アフターサービスを忘れる 「使用」に保守・修理が含まれる RPL等の検討が要る
リストの更新忘れ 外国ユーザーリストは年1〜2回改定 Entity Listは随時更新

構造が似ているので、片方で身につけた注意は、もう片方でも効きます。

6. どちらが厳しいかは、場面による

どちらが厳しいかは場面による
どちらが厳しいかは場面による

「EARのほうが厳しい」「日本のほうが緩い」。こうした一般化はできません。

【EARのほうが広く及ぶ面】
□ モノに規制が付いてくる(第三国間の移転にも及ぶ)
□ EAR99でもエンドユーザー規制が効く
□ 「reason to know」まで問われる

【日本のほうが押さえている面】
□ すべての輸出が外為法の対象
□ 技術提供の規制(みなし輸出・特定類型)が細かい
□ 補完的輸出規制の確認手順が定型化されている

両方を通すのが結論です。どちらかで代替はできません。

7. 記録は1つのファイルにまとめる

案件ごとの記録を、日米で別ファイルにしないでください。

【1案件1ファイルに含めるもの】
■ 共通
  □ 品目・型式・仕向地・輸入者・最終需要者・最終用途
■ 日本
  □ 該当項番(複数項該当の確認結果)
  □ 補完的輸出規制の確認結果(3つの関門)
  □ 適用した特例と根拠
  □ 参照した法令の版(施行日)
■ 米国
  □ 米国原産品の含有と割合
  □ ECCN(出所も)
  □ de minimisの判断(しきい値と除外品目の確認)
  □ Country Chartの結果
  □ 適用した許可例外(§740.2の確認を含む)
  □ 参照したeCFRの版(issue date)
■ 共通
  □ 照合したリストと版
  □ 判断日・判断者・承認者

版の記録が両方に入っていることを確認してください。日本の改正でもEARの改正でも、影響範囲を絞り込めるようになります。

まとめ

  • 日本の外為法から始め、EARを途中で合流させる。すべての案件が外為法の対象、EARは一部だけ
  • 発想は似ているが、項番とECCNの対応表は作れない。別の体系
  • STEP 0で米国原産品・技術の含有を把握するのが最重要。ここが分岐点
  • 製品マスタに「米国原産品の有無・割合・ECCN」の列を持つと、案件ごとの判断が引くだけになる
  • 相手と用途の確認は1枚にまとめられる。聞き取りは1回、照合は複数リスト
  • 用語の呼び分けを社内で決める(別表第三/カントリーグループA、項番/ECCN、特例/License Exception)
  • 共通する落とし穴は「リストにないから大丈夫」「モノは大丈夫で終わる」「技術・アフターサービスを忘れる」「リストの更新忘れ」
  • どちらが厳しいかは場面による。両方を通すしかない
  • 記録は1案件1ファイル日米両方の版(施行日/issue date)を残す

これで米国EARのシリーズは終わりです。

日本の輸出管理を学んだ方にとって、EARは構造が似ているぶん、入りやすいはずです。ただし用語も体系も別物なので、対応させようとせず、それぞれを別に理解して、実務で合流させる。これが最短だと思います。

さて、自社の製品マスタに、米国原産品の含有を示す列はあるでしょうか。

みなとくん船長、"合流させる"という言い方、しっくりきました
あんぼう船長二本の川を別々に渡ろうとすると疲れるでな。一本にしてしまえばよいんじゃ
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※ 日本側は2026年6月5日施行版、米国側は eCFR Title 15(2026年7月23日版)によります。両制度とも改正が頻繁です。 実務では必ず e-Gov および eCFR で最新版をご確認ください。本記事は実務の進め方を整理したものであり、個別事案の判断を示すものではありません。

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