三国間取引に関わったとき、まず判断すべきはこれです。
自社は、売り側と買い側の「両方の契約の当事者」になっているか。
経済産業省のQ&Aは、対象となる取引をこう定義しています。
外国相互間の貨物の移動を伴う売買、貸借又は贈与であって、居住者が貨物の「売り」「貸し」又は「贈与」契約と「買い」「借り」又は「受贈」契約の双方の当事者となる場合を指します。
双方の当事者、ここが決定的です。だから、こうなります。
| 関わり方 | 対象か |
|---|---|
| 売りと買いの両方の契約当事者 | ★対象 |
| 物流行為のみに携わる | 対象外 |
| 予約を行う | 対象外 |
| 取次ぎを行う | 対象外 |
「仲介っぽいことをした=対象」ではありません。


この記事は、現職で輸出管理・貿易実務に携わっている方に向けて書いています。
この記事を読むと、あなたの実務はこう変わります
- 自社が対象かどうかを、契約上の立場から切り分けられます
- 積替規制との違い(見る場所が1か所増える)が腹落ちします
- 4つの設例を覚えるだけで、地域の判断ができるようになります
- 国・地域マスタの作りという、見落としがちな落とし穴に気づけます
この記事で扱うこと
この記事の後半では、判断の全体を組み立てます。
- ★積替規制との決定的な違い:積替は仕向地だけ、仲介貿易は船積地域と仕向地の両方を見る。片方がグループAなら外れる
- ★4つの設例で覚える:武器(オランダ→アメリカ)/タイ→英国/アメリカ→オランダ/タイ→中国。この4つで判断できる
- 対象外になる3つの関わり方:物流のみ/予約/取次ぎ。「契約書を見る」という切り分けの問い
- ★逆に対象になる意外なケース2つ:まだ製造されていない貨物/売主の所有でない貨物
- ★香港・マカオは中国本土と別の外国:社内の国・地域マスタでまとめている会社は判断が逆になる
- 「おそれがある場合」の中身:射程・航続距離300km以上という数値
- ★「入手した文書等」の範囲:公開情報も含むが通常の商習慣の範囲内。この2つのバランスが実務の線引き。記録に残す根拠として使える言葉
- 時点はいつか:「許可を必要とする時点以前」。定義は通達1(3)
- 社内手順への落とし込み:★最大の課題は「三国間取引を拾える仕組み」。通関記録に残らないため、受注・与信フローから拾うしかない
対象になる貨物の範囲
こちらは広いです。
輸出貿易管理令別表第1の1の項から16の項までのいずれかに該当するものは、全てこの「貨物」にあたることになります。したがって、仲介貿易取引規制の適用のないものは、食料品や木材などに限定されます。
積替規制と同じく、ほぼ全部です。
1. 積替規制との決定的な違い:見る場所が2つ

前回の積替規制の実務では、仕向地だけを見ました。
仲介貿易取引規制は、船積地域と仕向地の両方を見ます。
Q&Aを引きます。
輸出貿易管理令別表第1の2の項から16の項に該当する貨物については、許可を受けなければならない場合がありますが、これは船積地域と仕向地のいずれもが、輸出貿易管理令別表第3に掲げる地域以外である場合であって、核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合又は経済産業大臣から許可申請をすべき旨の通知を受けた場合に限定されます。
つまり
【2〜16の項】
船積地域も、仕向地も、両方が「別表第三以外」
↓
★そのときだけ、おそれ or 通知で許可が要る
【どちらか一方でも別表第三なら】
→ 許可不要
片方がグループAなら、それだけで外れます。
2. 4つの設例で覚える

Q&Aに、そのまま使える設例が4つあります。この4つを覚えれば判断できます。(A = 輸出令別表第三の地域=グループA)
①が最重要です。Q&Aの回答をそのまま引きます。
船積地域及び仕向地が輸出令別表第3の地域であっても、貨物が武器であるため、許可が必要となります。
オランダからアメリカへ。両方グループA。それでも武器なら許可が要ります。
【覚え方】
1の項(武器) → 船積地域も仕向地も関係ない。常に許可
2〜16の項 → 両方がA以外のときだけ、おそれ/通知で許可
3. 対象外になる3つの関わり方

ここが実務の切り分けです。Q&Aから引きます。
① 物流行為のみ
外国相互間における貨物の輸送を行うことは、対象となりますか。 → 物流行為のみに携わる行為は、対象とはなりません。
運ぶだけなら対象外。 ここは積替規制と逆です(積替では運送人が申請義務者でした)。
② 予約
売買、貸借又は贈与の予約を行うことは対象となりますか。 → 売買、貸借又は贈与の予約は対象とはなりません。
予約段階では対象外。 契約が成立して初めて土俵に乗ります。
③ 取次ぎ
取次ぎを行うことは対象となりますか。 → 対象とはなりません。
「取次ぎ」は、自分が契約当事者にならず、他人の取引を取り次ぐ行為です。だから「双方の当事者」に当たらず、対象外になります。
【切り分けの問い】
自社は、売り契約の当事者か? YES/NO
自社は、買い契約の当事者か? YES/NO
↓
★両方YESのときだけ、対象になりうる
契約書を見てください。 「仲介した」という感覚ではなく、契約上の立場で決まります。
4. 逆に「対象になる」意外なケース

範囲を狭く見すぎないための注意です。Q&Aから2つ。
① まだ製造されていない貨物
取引客体である貨物が、売買、貸借又は贈与の当時いまだ製造されていないとしても、対象となります。
これから作る貨物の契約でも対象。
② 売主の所有物でない貨物
取引客体である貨物が、外国にある売主、貸主又は贈主の所有に属していない場合においても、対象となります。
売主が持っていない貨物でも対象。
「まだ無いから」「相手の物じゃないから」は理由になりません。
5. 香港・マカオは「異なる外国」です
見落とすと判断が逆になる論点です。
「外国相互間の移動」とはどういう場合を指しますか。 → 異なる外国の間の移動を指し、同一国内の移動は含みません。 この場合、中華人民共和国、香港、マカオはそれぞれ異なる外国として扱います。
つまり
中国本土 → 香港 ★異なる外国の間 = 対象になりうる
香港 → マカオ ★異なる外国の間 = 対象になりうる
中国本土 → 中国本土 同一国内 = 対象外
「中国国内の移動だから対象外」という判断は誤りになりえます。
社内の国・地域マスタで、香港・マカオを中国とまとめている会社は要注意です。輸出管理の判断では分けて扱う必要があります。
6. 「おそれがある場合」の中身
2〜16の項で許可が必要になる「おそれ」の定義です。Q&Aを整理します。
対象となるのは、当該取引に関して入手した文書等から、貨物が次のために用いられることとなる旨が記載され、若しくは記録されているとき、または取引の相手方・需要者・その代理人から連絡を受けたときです。
【用途】
□ 核兵器
□ 軍用の化学製剤・細菌製剤
□ これらの散布のための装置
□ これらを運搬できるロケット・無人航空機であって
★その射程・航続距離が300キロメートル以上のもの
の 開発・製造・使用・貯蔵
□ 「おそれ省令」別表に掲げる行為
★射程・航続距離300km以上という数値が入っていることに注意してください。
7. 「入手した文書等」の範囲:ここが実務の要

もっとも実務的な論点です。Q&Aを2つ引きます。
「取引に関して入手した文書、図画若しくは電磁的記録」は、取引の相手方その他の者から直接入手したものに限られますか。 → 取引の相手方その他の者から直接入手したものの他、公開情報を含め、当該取引に関して居住者が入手したものすべてを含みます。
なお、通常の商習慣の範囲内で入手したものを指し、それ以上に特定の文書等の入手を義務付けるものではありません。
2つの側面があります。
【広い側面】
★公開情報も含む
→ 調べれば分かる情報を見ていなかった、は弱い
【限定する側面】
★通常の商習慣の範囲内
→ 特別な調査までは義務付けられていない
この2つのバランスが、実務の線引きです。
【求められること】
□ 取引の過程で手に入った書類は、目を通す
□ 相手方の公開情報(HP・会社概要等)は確認する
□ 不自然な記載を見逃さない
【求められていないこと】
□ 興信所を使った調査
□ 商習慣を超える資料の要求
「通常の商習慣の範囲内」という言葉を、記録に残す根拠として使えます。
8. 時点はいつか
文書等の入手及び取引の相手方等からの連絡は、いつ時点のものを指しますか。 → 許可を必要とする時点以前のものを指します。
「許可を必要とする時点」の定義は、通達(外為法第25条第4項の規定に基づき許可を要する外国相互間の貨物の移動を伴う取引について)1(3)に置かれています。
契約のどの段階で判断するかを、通達で確認してください。
9. 社内手順への落とし込み

【案件の把握】
□ ★三国間取引を拾える仕組みがあるか
→ 日本を通らないので、通関記録・出荷記録に残らない
→ 受注・与信・請求のフローから拾うしかない
□ 海外子会社どうしの取引を本社が調整するケースを拾えるか
【切り分け(案件ごと)】
□ 自社は売り契約の当事者か
□ 自社は買い契約の当事者か
→ ★両方YESでなければ、この規制の対象ではない
□ 物流のみ/予約/取次ぎではないか
【判断】
□ 貨物は1の項(武器)か
→ YES: ★船積地域・仕向地を問わず許可
□ 2〜16の項の場合
→ 船積地域は別表第三か
→ 仕向地は別表第三か
→ ★両方が「別表第三以外」のときだけ次へ
□ 入手した文書等に、懸念用途の記載・記録はないか
□ 相手方・需要者・代理人から連絡を受けていないか
□ 経産大臣からの通知はないか
【★国・地域マスタ】
□ 香港・マカオを中国と別に扱えるか
【記録】
□ 契約上の立場(売り/買いの当事者かどうか)
□ 船積地域・仕向地とその区分
□ 確認した文書等の一覧
□ 「通常の商習慣の範囲内」で確認した旨
★「三国間取引を拾える仕組み」が、この規制の最大の課題です。
日本を通らない以上、輸出管理部門には自動的には見えません。受注登録や与信のフローに関門を埋め込むか、営業側に周知するしかありません。
10. 技術の仲介は別の話です
最後に切り分けを1つ。
外国相互間での技術の提供を仲介することは、仲介貿易取引許可の対象となりますか。 → 法第25条第1項の技術提供の許可の対象となることがあります。
貨物の仲介貿易取引規制(法25条4項)とは、別の条文です。
技術の仲介取引については、次回の記事で扱います。条文も、除外の作りも違います。
まとめ
- 判断の起点は★「売りと買い、双方の契約の当事者になっているか」
- 物流行為のみ/予約/取次ぎは対象外
- 対象貨物は1〜16の項すべて。適用のないものは食料品・木材など
- ★積替規制は仕向地だけ、仲介貿易は船積地域と仕向地の両方を見る
- 1の項(武器)は船積地域・仕向地を問わず許可(オランダ→アメリカでも必要)
- 2〜16の項は、両方が別表第三以外のときだけ、おそれ or 通知で許可
- ★まだ製造されていない貨物も、売主の所有でない貨物も対象
- ★中国本土・香港・マカオはそれぞれ異なる外国。国・地域マスタの作りに注意
- 「おそれ」の用途には射程・航続距離300km以上のロケット・UAVが含まれる
- ★「入手した文書等」は公開情報も含む。ただし通常の商習慣の範囲内
- 時点は「許可を必要とする時点以前」。定義は通達1(3)
- 最大の課題は三国間取引を拾える仕組み。通関記録に残らない
さて、自社の三国間取引は、輸出管理の目に入る仕組みになっているでしょうか。
次回は、技術の仲介取引を扱います。「日本の人が指示しただけ」でも対象になるという、もう一段ややこしい話です。


※ 内容は経済産業省 Q&A「仲介貿易取引規制」(最終更新2026年4月23日)および「仲介貿易・技術取引規制」ページによります。制度・運用は改正されることがあります。 実務では必ず 経済産業省 安全保障貿易管理 で最新の内容をご確認のうえ、判断に迷う場合は経済産業省へご相談ください。設例はQ&A掲載のものであり、個別事案の結論を示すものではありません。
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