安全保障貿易管理の資格として知られているのが、CISTECの実務能力認定試験(STC)です。
段階はこうなっています。
STC Associate (初級)
STC Advanced (中級)
STC Expert (上級・専門家レベル)
STC Legal Expert (法令編のみの上級)
そして、上級(Expert / Legal Expert)の出題分野に、こう書かれています。
⑪「米国再輸出規制関連」
試験範囲の説明も明確です。
外国為替及び外国貿易法第25条及び同法第48条等に関する輸出管理実務及び米国再輸出規制(EAR)
上級は、日本の外為法だけでは足りません。米国のEARが正面から入ってきます。


「上級を受ける年に、EARを一から始める」。これは間に合いません。
逆に言えば
上級を意識するなら、EARだけは早く始めておく
この記事は、これから輸出管理・貿易実務の仕事を目指す方に向けて書いています。
この記事を読むと、あなたの計画はこう変わります
- いつ何を始めればいいかの逆算スケジュールが手に入ります
- 落ちても無駄にならない受け方が分かります
- 貨物・技術編の戦い方(自分の専門で戦う設計)が分かります
- 資格を取らないという選択も、根拠を持って判断できます
この記事で扱うこと
この記事の後半では、実際の数字と戦略に入ります。
- 2026年度の試験日程一覧:★Expertは年1回(9月)だけ。Advancedは年2回、Associateは年3回。上に行くほど1回の重みが増す
- 当日のタイムテーブル:約4時間。法令編120分+休憩+貨物・技術編45分
- 出題数と配点:法令編25問30点/貨物・技術編10問10点。★選択式5問が2点=配点の3分の1。複数選択なので曖昧な知識で落ちる
- 法令編の出題分野11種:うち1つがEAR。「捨てるには惜しく、一夜漬けでは届かない」位置づけ
- 貨物・技術編は13分野・全25問から10問を選択:★10問を超えて解答すると全部無効。自分の専門分野で戦える設計と、決め打ちの戦略
- ★段階的取得という仕組み:法令編だけ合格すればLegal Expertが取れ、翌年から2年以内・2回まで貨物・技術編だけ(3,850円)で再挑戦できる。受験料の比較表つき
- ★2つの戦略の比較:一発でExpertを狙うか、まずLegal Expertを確実に取るか。未経験・独学ならどちらが現実的か
- 受験資格は学歴・年齢・経歴・国籍の制限なし:未経験でも上級を受けられる
- ★EARの逆算スケジュール(12か月前〜当日):12か月前から概念、9か月前から原文。難しいのは英語ではなく体系が違うこと
- EAR独学の進め方4ステップ:Part 772(定義)を辞書として手元に置くのが効く理由
- 試験を受けないという選択:資格が効く場面と、なくても困らない場面
だから、始める時期が問題になります
EARは英語の連邦規則です。日本の外為法を学ぶのとは、必要な時間がまったく違います。
「上級を受ける年に、EARを一から始める」。これは間に合いません。
逆に言えば
上級を意識するなら、EARだけは早く始めておく
これが、この記事の結論です。
1. 2026年度の試験日程(実際の公表値)

まず事実を並べます。CISTECが公表している2026年度のスケジュールは、上の図のとおりです。
★上級(Expert)は年1回、9月だけです。
これが、計画を立てるうえで決定的な事実です。
【落とすと1年待ち】
Expert / Legal Expert → 年1回(9月)
Advanced → 年2回(10月・翌3月)
Associate → 年3回(7月・10月・翌2月)
下の段ほど受験機会が多い。上に行くほど、1回の重みが増します。
2. 上級の中身:時間・配点・出題数

2026年度 Expert / Legal Expert の実際の構成です。
当日のタイムテーブル
12:45〜13:15 開場
13:15〜13:30 注意事項の説明
13:30〜15:30 ★法令編(120分)
15:30〜15:45 休憩
15:45〜16:00 注意事項の説明
16:00〜16:45 ★貨物・技術編(45分)
16:45 終了
約4時間の長丁場です。法令編120分のあとに、貨物・技術編45分という構成です。
出題数と配点
上の図の右側にまとめました。法令編は計25問/120分(択一式20問+選択式5問)で、1点×20問+2点×5問=30点。貨物・技術編は計10問/45分で、1点×10問=10点です。
★注目すべきは「選択式5問が2点」という点です。
【択一式】五肢から「正しいもの」または「誤っているもの」を1つ選ぶ
【選択式】五肢から「正しいもの」または「誤っているもの」を★複数選ぶ
複数選択の5問が、配点全体の3分の1(30点中10点)を占めます。
「1つ選ぶ」より「複数選ぶ」ほうが難しいのは、部分的な理解では当たらないからです。曖昧な知識が、ここで落ちます。
法令編の出題分野(11分野)
① 概論
② 輸出規制の枠組み
③ 我が国の法制度一般
④ 特例関連
⑤ 包括許可関連
⑥ 役務取引関連
⑦ キャッチオール規制関連
⑧ 取引審査関連
⑨ 申請手続き関連
⑩ 企業の輸出管理関連
★⑪ 米国再輸出規制関連
11分野のうち1つがEARです。単純に割れば25問中2〜3問程度と見込まれますが、配点の高い選択式に入る可能性もあります。
「捨てる」には惜しく、「一夜漬け」では届かない。それがEARの位置づけです。
3. 貨物・技術編は「選択」です

ここが、上級で最も重要な設計です。
全25問から10問を選択。(10問を超えて解答した場合は、すべて無効。)
★10問を超えて解答すると全部無効。これは要注意です。時間内に選ぶという作業が要ります。
選択できる分野は13あります。
□ 核・原子力関連資機材
□ 航空宇宙関連資機材
□ レーダー・航法関連
□ センサー・レーザー関連
□ 化学製剤原料関連
□ 化学兵器製造関連資機材
□ 生物兵器製造関連資機材
□ 先端材料関連
□ 材料加工関連(軸受、工作機械、測定装置、ロボット、塑性加工)
□ エレクトロニクス関連(半導体集積回路、電子デバイス、計測器、半導体製造装置)
□ コンピュータ関連
□ 通信・情報セキュリティ関連
★自分の専門分野で戦える。これが上級の設計思想です。
【戦略】
□ 自分の業務・専攻に近い分野を3〜4つ決め打ちする
□ その分野の貨物等省令を精読する
□ 残りは捨てる(全分野は物理的に無理)
メーカー勤務なら自社製品の分野、理系出身なら専攻分野、すでに持っている知識が、そのまま点になります。
4. 段階的取得という仕組み

これは、知らないと損をする制度です。公表資料から引きます。
① 「STC Expert」を受験し、貨物・技術編は不合格であったが、法令編が「STC Legal Expert」の合格レベルであった場合、「STC Legal Expert」の資格を取得することができます。
② 「STC Legal Expert」の合格者が、合格の翌年から2年以内に、STC Expertの「貨物・技術編」で一定水準の成績を収め、合格すれば、STC Expertの資格を取得することができます。
つまり
【1回目】Expert を受験
法令編 ○ / 貨物・技術編 ×
↓
★Legal Expert として認定される(無駄にならない)
↓
【2年以内】貨物・技術編だけを受け直す
→ 合格すれば Expert
★法令編の合格が、2年間キープされるということです。
さらに、貨物・技術編のみの受験は受験料が安く設定されています。上の図の右上のとおり、STC Expert(法令編+貨物・技術編)が8,800円、STC Expert(貨物・技術編のみ)が3,850円、STC Legal Expert(法令編のみ)が7,700円です。
貨物・技術編のみの再挑戦は3,850円、負担がかなり軽くなります。
ただし条件があります。
合格の翌年から2年以内に合計2回までを受験資格といたします。
2年・2回まで。ここは押さえてください。
「法令編を先に取ると、上級への道が2年ぶん開く」。
この仕組みを知っていると、学習配分が変わります。
【戦略A】一発でExpertを狙う
→ 法令編+貨物・技術編を同時に仕上げる
→ 準備期間は長くなる
【戦略B】まず Legal Expert を確実に取る ★おすすめ
→ 法令編に集中(EARを含む)
→ 取れたら、2年以内に貨物・技術編だけ
→ 1回あたりの負荷が軽い
未経験・独学の方には、戦略Bが現実的だと思います。
5. 受験資格は「制限なし」です
見落とされがちですが、重要な事実です。
日本国内在住者(学歴、年齢、経歴、国籍等についての制限はありません。)
実務経験がなくても、上級を受けられます。
【つまり】
□ 学生でも受けられる
□ 未経験でも受けられる
□ 下位級の合格が前提条件ではない
就職前に上級を取ることは、制度上は可能です。
もちろん簡単ではありません。ただし、「実務経験がないから受けられない」という思い込みは間違いです。
6. EARをいつ始めるか:逆算する
本題です。上級を意識するなら、EARをいつから始めるか。
前提:EARは日本法と別の体系です
【EARで最低限おさえる範囲】
Part 730 概要
Part 734 適用範囲(subject to the EAR / de minimis)
Part 738 CCLの構造・Country Chart
Part 740 許可例外・カントリーグループ
Part 744 エンドユーザー・エンドユース規制(Entity List)
Part 772 定義
この6つを、条文レベルで理解するのに、独学なら50〜80時間は見ておいてください(筆者の見積もりです)。
逆算スケジュール(9月試験に向けて)

【9月試験の12か月前】=前年9月
□ 日本法の基礎を固める(Associate 相当)
□ ★EARを「概念だけ」触っておく
→ subject to the EAR / de minimis / ECCN /
カントリーグループ / Entity List
→ 用語が耳慣れた状態にする
【9か月前】=前年12月
□ 日本法の中級(Advanced 相当)
□ ★EARの原文(eCFR)を Part 730・734 から読み始める
【6か月前】=3月
□ 法令編の11分野を一巡
□ ★EARを Part 738・740 まで
【4か月前】=5月
□ ★EARを Part 744・772 まで
□ 貨物・技術編の分野を3〜4つ決め打ちする
【3か月前】=6月
□ 法令編の弱点分野を潰す
□ 選択式(複数選択)対策 ★配点が重い
【2か月前】=7月
□ 決め打ちした貨物分野の省令を精読
【1か月前】=8月
□ ★申込期限を確認(2026年度は8月27日15時)
□ 全体の総復習
【当日】9月11日
★EARは「12か月前から概念、9か月前から原文」。これが要点です。
理由は、英語だからではありません。 体系が違うからです。
日本:外為法 → 政令 → 省令 → 通達
米国:Part番号で機能ごとに分かれている
(適用範囲/分類/仕向地/例外/エンドユーザー/定義)
「対応表を作ろうとして混乱する」。これがEAR学習で最大の落とし穴です。別物として、別に覚えるしかありません。だから時間がかかります。
7. EARの学習は、無料でできます

朗報です。EARの条文は全文が無料で読めます。
eCFR(electronic Code of Federal Regulations)
→ Title 15, Chapter VII, Subchapter C
そして、米国連邦政府の著作物は著作権の対象外とされています(17 U.S.C. §105)。
原典が無料で、しかも制約なく引用できる。 この条件は、日本の法令解説書よりむしろ恵まれています。
【EAR独学の進め方】
① Part 730(概要)を通読 ── 全体像をつかむ
② Part 772(定義)を辞書として手元に置く ★
③ Part 734 → 738 → 740 → 744 の順に読む
④ 分からない用語が出たら、必ず Part 772 に戻る
★②が効きます。 定義が1か所に集まっているのがEARの良いところです。日本の制度は、用語の定義が運用通達と役務通達に分かれているので、この点はEARのほうが親切です。
8. 試験を受けないという選択も、悪くありません
資格が必須の職種ではありません。
【資格が効く場面】
□ 未経験からの就職・転職で、学習の証明になる
□ 社内で担当を任される根拠になる
□ 体系的に学ぶ強制力になる
【資格がなくても困らない場面】
□ すでに実務経験がある
□ 社内で評価が確立している
□ 業務範囲が限定的
未経験者にとっては、「学習の証明」としての価値が最も大きいと思います。実務経験で示せないぶんを、資格で示す。という使い方です。
そして、上級を目指す過程そのものに価値があります。
11分野を一巡し、EARの原文を読み、貨物分野を3〜4つ深掘りする。この作業を1年かけてやれば、試験の結果にかかわらず、実務で使える知識が残ります。
資格は目的ではなく、学習を設計するための枠。そう捉えるのが健全だと思います。
まとめ
- STCはAssociate(初級)/Advanced(中級)/Expert(上級)/Legal Expert(法令編のみの上級)
- ★上級(Expert / Legal Expert)の法令編に「⑪米国再輸出規制関連」が明記。試験範囲にも米国再輸出規制(EAR)とある
- ★Expertは年1回(9月)だけ。落とすと1年待ち。Advancedは年2回、Associateは年3回
- 当日は約4時間。法令編120分(25問・30点)+貨物・技術編45分(10問・10点)
- ★選択式5問が2点=配点の3分の1。複数選択なので曖昧な知識で落ちる
- 貨物・技術編は13分野・全25問から10問を選択。★10問を超えて解答すると全部無効
- 自分の専門分野で戦える設計。すでに持っている知識が点になる
- ★段階的取得:法令編だけ合格すればLegal Expertが取れ、翌年から2年以内・2回まで貨物・技術編だけ(3,850円)で再挑戦できる
- 未経験・独学なら、まずLegal Expertを確実に取る戦略が現実的
- 受験資格に学歴・年齢・経歴・国籍の制限なし。未経験でも上級を受けられる
- ★EARは12か月前から概念、9か月前から原文。難しいのは英語ではなく体系が違うこと。対応表を作ろうとしないこと
- EARの条文はeCFRで全文無料。米国連邦政府の著作物は著作権の対象外。Part 772(定義)を辞書として手元に置く
- 資格は必須ではない。未経験者にとっては「学習の証明」としての価値が最大
- 上級を目指す過程そのものに価値がある。資格は学習を設計するための枠
これで、キャリア編は最終回です。
未経験から輸出管理を目指す道のりを、9回にわたって書いてきました。学ぶ順番、仕事の中身、部署の選択肢、法令地図、制度の将来性、大学という進路、つまずきの型、独学の入口、そして上級への道。
必要なものは、ほとんど無料で揃っています。 あとは、始めるかどうかだけです。
さて、カレンダーに来年9月の日付を、書き込んでみませんか。


※ 日程・受験料・出題数・出題分野は、CISTECが公表している2026年度の受験要項によります。内容は年度ごとに変わります。 受験を検討される場合は、必ず CISTEC 実務能力認定試験 で最新の受験要項をご確認ください。本記事はCISTECと関係のない第三者による整理であり、公認・認定を受けたものではありません。学習時間・スケジュールは筆者の見積もりであり、合格を保証するものではありません。
改正を見落とさないために(無料)
安全保障貿易の制度は、たびたび改正されます。安貿ナビでは、経済産業省・CISTEC・米国EARの新着を確認し、実務への影響をメールでお届けしています。
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