ある日、こう言われる人がいます。
「輸出管理、やっておいて」
引き継ぎ資料はありません。前任者もいません。 社内で輸出管理を分かっている人が、他にいません。
この状況は、珍しくありません。
そして、この状況で最もやってはいけないのが
【失敗する進め方】
□ 完璧な内部規程を作ろうとする
□ 全製品の該非判定を一度にやろうとする
□ 全社説明会を最初にやろうとする
★どれも、90日では終わりません。


★「完成」は目指しません。「止まらない状態」を作ります。
この記事は、これから輸出管理・貿易実務の仕事を目指す方、および任命されたばかりの方に向けて書いています。
この記事を読むと、あなたはこう変わります
- 何から手をつけるかが決まります
- やらなくていいことが分かって、楽になります
- 無料で使える支援につながれます
- 経営に何を言えばいいかが分かります
この記事で扱うこと
この記事の後半では、実際に動ける形にします。
- 【0〜30日】止血:現状把握7項目(★過去の判定・CPの有無)/最小の関門を1つ置く/優先度の高い品目から判定。この30日でやらないこと3つ
- 【31〜60日】足場:★遵守基準の語尾で義務と努力義務を分ける。90日で作るのは義務の側だけ
- ★帳票はゼロから作らない:ガイダンス別添4の6様式を使う。自社仕様を最初から作ると1か月溶ける
- 判定の型:自社製品/他社調達品。メーカーが間違えても責任は輸出者側
- 【61〜90日】仕組み:★アウトリーチ事業の体制構築支援(無料・伴走型)を使う
- ★経営を巻き込む:伝える5項目。「一人では回らない」を必ず言う
- ★規程でなくA4数枚のメモでいい。属人化させない
- 90日の終わりに残っているもの/できていなくてよいものの対比リスト
- その先の順番(4〜6か月/7〜12か月/2年目)
- ★心構え。この仕事の本質は「止めること」ではなく「通すこと」
90日の設計図
【0〜30日】止血する
□ いま流れている案件を止められる状態にする
【31〜60日】足場を作る
□ 最低ラインの手順と帳票を用意する
【61〜90日】仕組みにする
□ 他の人が回せる形にする/外部の力を借りる
★「完成」は目指しません。「止まらない状態」を作ります。
【0〜30日】止血する

Day 1〜7:現状を知る
規程を作る前に、事実を集めます。
□ 直近1年で、どこへ何を輸出したか(一覧を出す)
□ 海外拠点はあるか/どこか
□ 外国籍・海外在住の社員はいるか
□ 図面・仕様書を社外に出しているか
□ 海外からの引合いは誰が受けているか
□ ★過去に該非判定をしたことがあるか
□ ★CP(内部規程)は存在するか
★最後の2つを必ず確認してください。前任者が作った資料が眠っていることがあります。
そして、いちばん大事な確認。
□ ★いま、判定していない案件が流れていないか
これが止血の対象です。
Day 8〜14:とにかく「止められる」状態を作る
完璧な手順より、まず関門を1つ置きます。
【最小の関門】
海外向けの出荷・技術提供の前に、
輸出管理担当(あなた)に一報が来る
↓
それだけ
判定の質は、後から上げられます。 案件が来ないことだけは、後から取り返せません。
【関門の置き方】
□ 受注登録のフローに「海外向けか」のフラグ
□ 出荷指示に確認欄
□ 海外出張申請に技術提供の有無
□ ★営業・技術・出荷の各責任者に、口頭でいいので依頼する
Day 15〜30:優先度の高い品目から判定する
全製品は無理です。絞ります。
【優先順位】
① 直近で海外向け出荷がある製品
② 出荷量・金額が大きい製品
③ ★リスト規制に該当しそうな分野の製品
(工作機械/材料/エレクトロニクス/
化学品/センサー/通信 等)
④ その他
③の絞り方は、無料記事「デュアルユース」とは何かの懸念品目リストが目安になります。
この30日でやらないこと
✗ 内部規程を書き始める
✗ 全社説明会を開く
✗ 完璧な帳票を作る
★体制づくりは、事実を掴んでからです。
【31〜60日】足場を作る
まず「義務」と「努力義務」を分ける

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
輸出者等遵守基準には、すべてやらなければならないものと、努めればよいものがあります。
条文の語尾を見てください。
「〜すること」 → ★義務
「〜するよう努めること」 → 努力義務
上の図の左側が義務、右側が努力義務です。該非確認の手続を定めること、用途確認・需要者等確認の手続を定めて確認を行うこと、出荷時に該非を確認した貨物等と一致しているか確認を行うこと。この3つは「〜すること」なので義務です。監査・研修・関係文書の保存は「〜するよう努めること」なので努力義務です。
★90日で作るのは、義務の側だけです。
努力義務は、体制が回り始めてからで構いません。そこを最初にやろうとすると終わりません。
詳しくは実務者向け記事「輸出者等遵守基準~義務と努力義務を分けて、最低ラインを引く~」で扱っています。
帳票は「作らない」

ゼロから設計しないでください。
経済産業省が、ガイダンス入門編の別添4として帳票様式を公開しています。
① 該非判定書
② 用途チェックリスト
③ 需要者チェックリスト
④ 明らかガイドラインシート
⑤ 取引審査票
⑥ 出荷チェックリスト
★これをダウンロードして、社名を入れて使い始めてください。
自社に合わない部分は、使いながら直せばいい。最初から自社仕様を作ろうとすると、1か月溶けます。
判定の「型」を決める

【自社製品】
マトリクス表で当たりをつける
↓
貨物等省令でスペックを突き合わせる
↓
用語は運用通達・役務通達で確認
↓
★ダブルチェック(一人で決めない)
【他社から購入した製品】
★メーカーから該非判定書を入手する
↓
★根拠の項番とスペックが書かれているか確認する
★後者が実務では多いです。まず「判定書をどう取り寄せ、どう保管するか」を決めてください。
そして、メーカーが間違えても、責任は輸出者側です。受け取った判定書は、読んでください。
【61〜90日】仕組みにする
外部の力を借りる(無料です)

一人で全部やる必要はありません。
経済産業省の中小企業等アウトリーチ事業は、すべて無料です。
① 輸出管理に係る体制構築支援
→ ★経験豊富なアドバイザーを無料で派遣
→ 問題点と目標を話し合い、進め方を具体化
→ 進捗を見ながらアドバイス(伴走型)
② 相談対応(商工会議所)
→ 1回約30分の個別相談
→ ★会員・非会員を問わない
③ 説明会(入門編・初級編・中級編)
→ 会場で個別相談会も無料
④ 学習用コンテンツ(動画)
★①を使ってください。
アドバイザーは製造業や士業で企業の輸出管理実務に長年携わってきたベテランです。事務局が、悩みに合う人を選んで派遣してくれます。
「一人目の担当者」という状況は、まさにこの制度が想定している場面です。
詳しくは無料で専門家に相談できますへ。
経営を巻き込む
これを避けて通ることはできません。
輸出者等遵守基準では、統括責任者を組織を代表する者(代表取締役)とすることが求められています。取引審査の責任者も取締役から選任することが求められます。
【経営に伝えること】
□ 輸出管理は制度上、経営の責任と位置づけられている
□ 違反すると★輸出そのものを止められることがある
(罰金より重い)
□ 違反企業の★71%はCP未届出というデータがある
□ 無料の支援制度がある
□ ★一人では回らない
★最後の一行を、必ず言ってください。
「頑張ります」で引き受けると、そのまま一人で背負うことになります。
誰が代われるかを決める
□ あなたが休んだとき、誰が案件を止められるか
□ 判定書はどこにあるか、他の人が分かるか
□ ★手順を書いたメモがあるか(規程でなくてよい)
★「規程」でなくて構いません。 A4で数枚のメモでいい。「あなたしか分からない」状態を作らないことが目的です。
90日の終わりに残っているもの

【できていること】
□ 案件が輸出管理を通る関門がある
□ 主要製品の該非判定が終わっている
□ 帳票が用意され、使われている
□ 判定書の取り寄せ・保管の手順がある
□ 経営が「これは経営の仕事」と認識している
□ 外部の支援につながっている
□ 他の人が最低限は回せるメモがある
【できていなくてよいこと】
□ 内部規程(CP)の完成
□ CP届出
□ 監査の実施
□ 全社研修
□ 子会社への指導
□ 全製品の該非判定
★下のリストは、91日目以降です。
その先の順番
90日を越えたら、こう進みます。
【4〜6か月目】
□ 内部規程(CP)を書く
→ ★ゼロから書かない。既存の社内規程を活かす
→ 複数規程でも、他者の規程を引用してもよい
□ 残りの製品の該非判定
【7〜12か月目】
□ CP届出(任意)
→ ★届け出ると毎年7月に提出義務が生じる
□ 研修(まず営業部門から)
□ 監査の設計
【2年目】
□ 子会社・関連会社の指導
□ 包括許可の検討
★CP届出には年1回の宿題が付いてくることを、届け出る前に知っておいてください(CP届出の実務)。
心構えを1つだけ
最後に、経験のない方に伝えたいことがあります。
この仕事は、「止める人」だと思われがちです。
営業からは煙たがられ、技術からは面倒がられ、経営からは「早くして」と言われる。一人目の担当者は、特に孤立しやすい。
でも、この仕事の本質は、通すことです。
□ 事前受付を知っていれば、施行前に申請できる
□ 特例を知っていれば、許可なしで出せる
□ 包括許可を取れば、1件ずつ申請しなくて済む
□ 早く相談すれば、間に合う
「出せません」ではなく「こうすれば出せます」と言える人は、必ず社内で必要とされます。
そのために、知識より先に、相談できる先を作ってください。 経済産業省の窓口、アウトリーチ事業のアドバイザー、大学であれば担当者の地域ネットワーク。
一人でやる仕事ではありません。
まとめ
- 一人目の担当者が全部やろうとすると潰れる。90日で「完成」は目指さない
- 【0〜30日】止血:現状把握(★過去の判定・CPの有無)→最小の関門を1つ置く→優先度の高い品目から判定
- この30日で規程を書き始めない/全社説明会をしない/完璧な帳票を作らない
- 【31〜60日】足場:★遵守基準の「〜すること(義務)」と「〜するよう努めること(努力義務)」を分け、義務だけやる
- 帳票はゼロから作らない。ガイダンス別添4の6様式をダウンロードして使う
- 他社製品はメーカーから判定書を入手。メーカーが間違えても責任は輸出者側なので、読む
- 【61〜90日】仕組み:★中小企業等アウトリーチ事業(すべて無料)の体制構築支援を使う。伴走型でアドバイザーが派遣される
- 経営を巻き込む。統括責任者は代表取締役、取引審査の責任者は取締役から選任が求められている。★「一人では回らない」と必ず言う
- ★規程でなくA4数枚のメモでいい。「あなたしか分からない」状態を作らない
- CP届出・監査・全社研修・子会社指導は91日目以降
- ★CP届出には毎年7月の提出義務が付いてくる
- この仕事の本質は「止めること」ではなく「通すこと」。知識より先に、相談できる先を作る
さて、任命されたばかりなら、まず、直近1年の輸出一覧を出すところから始めてみてください。


※ 遵守基準・体制・帳票・支援制度の内容は経済産業省の公表資料(説明会資料 令和7年度版、ガイダンス[入門編]、中小企業等アウトリーチ事業のページ 等)によります。制度・支援内容は変わることがあります。 最新の内容は 経済産業省 安全保障貿易管理 でご確認ください。90日の進め方は筆者の整理であり、公的な推奨手順ではありません。 企業の規模・業態により適切な進め方は異なります。
改正を見落とさないために(無料)
安全保障貿易の制度は、たびたび改正されます。安貿ナビでは、経済産業省・CISTEC・米国EARの新着を確認し、実務への影響をメールでお届けしています。
社内の輸出管理教育をご検討の企業のご担当者さまには、あわせて資料をお送りしています。
