概要
この業界に入ると、すぐに出てくる言葉があります。
デュアルユース(軍民両用)
「うちは兵器なんて作っていません」。そう思った方にこそ、読んでいただきたい記事です。
なぜなら、規制されているものの大半は、兵器ではないからです。

上の図のとおり、規制対象は武器・兵器だけではありません。兵器の開発などにも使える、性能の高い「ふつうの製品」が加わります。
この2つ目が、圧倒的に多い。 そして、それを指す言葉がデュアルユースです。


- 規制対象の大半が「兵器ではないふつうの製品」である理由
- 同じモノが、使う人によって別のものになるという考え方
- 性能の線引きがどう決まっているのか
同じモノが、使う人によって別のものになる
経済産業省の資料に、こういう表があります。

工作機械は自動車の製造や切削に使われる一方、ウラン濃縮用遠心分離機の製造にも使えます。シアン化ナトリウムは金属メッキ工程と化学兵器の原材料。ろ過器は海水の淡水化と細菌兵器の製造のための細菌の抽出。炭素繊維は航空機の構造材料とミサイルの構造材料です。
左と右で、モノは同じです。
変わっているのは使う人と目的だけ。
「性能が高いものは、平和な使い方も、そうでない使い方もできてしまう」。
これがデュアルユースです。
驚くのはここからです
「工作機械や炭素繊維なら分かる」と思われたでしょうか。
経済産業省は、大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれの強い貨物の例を、41品目リストにして公表しています(令和4年10月7日時点)。
その中には、こんなものが入っています。

※ミサイルはM、生物兵器はB、核兵器はN
目を引くのは、大型トラックとクレーン車です。
なぜミサイルなのか。ミサイルは、運ばないと使えないからです。運搬車と、発射台を組み立てる重機。兵器そのものではないのに、なければ困るものが規制の視野に入ります。
凍結乾燥機もそうです。インスタント食品や医薬品の製造に使う、ごくふつうの装置です。同時に、細菌を粉末にして保存するのにも使えます。
リストにある「意外なもの」
先ほどの41品目から、身近なものを拾います。
【核兵器の懸念】
□ 口径75ミリメートル以上のアルミニウム管
□ 周波数変換器
□ 電圧又は電流の変動が少ない直流の電源装置
□ 耐放射線ロボット
□ TIG溶接機、電子ビーム溶接機
【ミサイルの懸念】
□ 微粉末を製造できる粉砕器
□ カールフィッシャー方式の水分測定装置
□ ジャイロスコープ
□ ロータリーエンコーダ
□ プリプレグ製造装置
【生物・化学兵器の懸念】
□ 密閉式の発酵槽
□ 耐食性の反応器・かくはん機・熱交換器・蒸留塔
□ 噴霧器を搭載するよう設計された無人航空機(UAV)★
□ UAVに搭載するよう設計された噴霧器 ★
★の2つに注目してください。農薬散布用ドローンと、その噴霧器です。

農業のための道具が、そのまま生物・化学剤を撒く道具になりうる。用途がまったく同じで、中身だけ違う。これほど分かりやすいデュアルユースはありません。
なお、この2つには「娯楽若しくはスポーツの用に供する模型航空機を除く」という除外が付いています。趣味のドローンまでは対象にしていない、という線引きです。
「うちは違う」と言い切れるか
ここまで読んで、どう感じたでしょうか。
□ 溶接機を作っている
□ ポンプを作っている
□ 発電機を扱っている
□ 測定器を扱っている
□ トラックや重機を扱っている
□ 化学品を扱っている
□ 繊維材料を扱っている
□ ドローンを扱っている
どれかに当てはまるなら、確認する価値があります。
誤解のないように書いておきます。
上のリストに載っている=すぐ違反、ではありません。
このリストは、「用途・需要者の確認を特に慎重に行うことが必要」なものを挙げたものです。資料にもそう書かれています。
つまり
リストに載っている
↓
★輸出できないわけではない
↓
★「誰に、何のために」を、いつもより丁寧に確認する
確認して問題がなければ、ふつうに輸出できます。
性能の「線引き」がある

もうひとつ、安心していただきたいことがあります。
「工作機械はすべて規制」ではありません。
規制されるのは、一定の性能を超えたものだけです。この性能の線引きが、貨物等省令という省令に、数値で細かく書かれています。
たとえば工作機械なら、位置決め精度が何ミリ未満か、制御できる軸の数がいくつ以上かといった条件です。
工作機械
├ 精度が基準を超える → 規制対象
└ 基準に届かない → 対象外
だから「該非判定」という作業が必要になります。
自社製品のスペックと、省令に書かれた数値を突き合わせる。この作業がこの仕事の中心です。
該非判定については、別の記事であらためて詳しく扱います。
なぜ、こんなに細かく決めるのか
「デュアルユースが危ないなら、全部止めればいいのでは」と思うかもしれません。
それをやると、経済が止まります。
工作機械も、発電機も、ろ過器も、世界中の産業に必要なものです。全部止めれば、日本の輸出産業は成り立ちません。
だから制度は、こういう作りになっています。
【止めるもの】
性能が高く、兵器転用のリスクが具体的にあるもの
+
用途や相手に懸念があるもの
【通すもの】
それ以外のすべて
「止めること」ではなく「見極めること」が目的です。
輸出管理の担当者は、取引を止める人ではありません。安心して出せるようにする人です。ここは、この仕事を理解するうえで大事なところだと思います。
まとめ
- デュアルユース=軍民両用。平和な使い方も、兵器への転用もできるもの
- 規制対象の大半は兵器ではなく、性能の高い「ふつうの製品」
- 同じモノでも、使う人と目的で意味が変わる(工作機械→遠心分離機、ろ過器→細菌の抽出、炭素繊維→ミサイルの構造材)
- 懸念品目の例には大型トラック・クレーン車・凍結乾燥機・発電機・溶接機まで入っている
- 農薬散布用ドローンと噴霧器も対象。ただし趣味の模型航空機は除外
- リストに載っている=輸出できない、ではない。「用途・需要者の確認を特に慎重に」という意味
- 性能の線引きは貨物等省令に数値で書かれている。だから該非判定が必要になる
- 制度の目的は「止めること」ではなく「見極めること」
さて、あなたの会社の製品は、上のどれかに近いでしょうか。
近いものがあったなら、それは悪いことではありません。確認する手順を持てばいいだけです。その手順が「三本の矢」です。
次に読むなら、こちらをどうぞ。
- 次に読む:「うちは輸出していないから関係ない」:5つの落とし穴 — 自分に関係あるかどうかが分かります
- あわせて読む:輸出管理の「三本の矢」 — 実際に何をするのか


※ 転用可能性の表および懸念品目の例は、経済産業省 説明会資料「安全保障貿易管理の概要(初級編)」(令和7年度版)によります。懸念品目の例は資料上「令和4年10月7日時点」と明記されています。規制対象・性能基準は改正で変わります。 実際の判定は必ず 貨物等省令・マトリクス表 の最新版でご確認ください。本記事は制度の考え方を説明したもので、個別品目の該非を示すものではありません。
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