概要

「海外に何も送っていないから、輸出管理は関係ない」

そう思っている方に、まずお伝えしたいことがあります。技術の提供は、国境を越えなくても規制されることがあります。

社内の会議室で、日本にいる人に説明しただけ。それでも対象になる場合があるのです。

これをみなし輸出といいます。

みなとくん船長、それはさすがに大げさじゃないですか?
あんぼう船長大げさではないんじゃ。しかもな、2022年に運用が明確化されて、対象が広がっておる。ここは押さえておきたいところでな
## この記事で学べること
  • 貨物が国境を越えなくても規制対象になる「みなし輸出」の仕組み
  • 判断の軸が「居住者か、非居住者か」であること
  • 2022年の運用明確化で対象がどう広がったのか

なぜ「輸出」と呼ぶのか

なぜ「輸出」と呼ぶのか 国境を越えなくても、輸出とみなす
なぜ「輸出」と呼ぶのか 国境を越えなくても、輸出とみなす

みなし輸出=「国境を越えていないが、輸出と同じ扱いにする」という考え方です。

なぜそうするのか。理由はシンプルです。

技術は、貨物と違って持ち運ばなくても渡せるからです。

図面をメールで送る。口頭で説明する。実験を見せる。どれも「国境を越えた」ようには見えません。でも、受け取った人が海外へ持ち出せば、結果は貨物を輸出したのと同じです。

そこで法律は、技術が国外へ流れうる場面を「輸出とみなす」ことにしました。

判断の軸は「居住者か、非居住者か」

判断の軸は「居住者か、非居住者か」 決めるのは国籍ではなく、軸足
判断の軸は「居住者か、非居住者か」 決めるのは国籍ではなく、軸足

ここで登場するのが居住者/非居住者という区分です。国籍ではありません。上の図のとおり、居住者は日本国内に住所・居所がある人や日本の事務所に勤務している人、非居住者は外国に住所・居所がある人や外国の事務所に勤務している人です。

「どこの国の人か」ではなく「どこに軸足があるか」

外国籍でも、日本の会社に勤めて日本に住んでいれば居住者です。逆に日本国籍でも、海外の事務所に勤務していれば非居住者になります。

なお、入国後6か月を経過した外国人や、国内の事務所に勤務する外国人は居住者として扱われるという整理があります。

そして原則は、居住者から非居住者への技術提供は、みなし輸出の対象になります。

2022年、対象が広がりました

2022年、対象が広がりました 2022年5月、線が引き直されました
2022年、対象が広がりました 2022年5月、線が引き直されました

ここからが重要です。

従来は「居住者か、非居住者か」で線を引いていました。ところが2022年5月1日から運用が明確化され、居住者であっても、一定の条件に当てはまる人への技術提供は規制対象となりました。

この一定の条件を特定類型といいます。上の図の右側にあるとおり3つあります。は外国の法人や政府等と契約を結び、その指揮命令に服する、または善管注意義務を負う人。は外国政府等から多額の利益(年間所得の25%以上)を得ている、または得る約束をしている人。は日本国内での行動について、外国政府等の指示・依頼を受ける人です。

「日本に住んでいても、外国側に強い結びつきがあれば対象になりうる」

たとえば、日本の大学に所属している研究者が、外国の大学とも雇用契約を結んでいる場合。日本に住んでいるので居住者ですが、①に当てはまる可能性があります。

どういう場面で問題になるのか

どういう場面で問題になるのか どれも「海外に貨物を送る」場面ではない
どういう場面で問題になるのか どれも「海外に貨物を送る」場面ではない

具体的な場面を挙げてみます。

  • 社内の外国籍スタッフに、規制対象の技術を説明する
  • 外国の大学と共同研究を行い、技術情報を共有する
  • 海外拠点の従業員に、製造ノウハウを教える
  • 委託先のエンジニアに、設計データを渡す
  • 留学生を研究室に受け入れ、規制技術に触れさせる

どれも「海外に貨物を送る」場面ではありません。それでも、提供する技術が規制対象で、相手が非居住者または特定類型に当てはまるなら、許可が必要になる可能性があります。

判断のための道具があります

判断のための道具があります ゼロから考えなくていい
判断のための道具があります ゼロから考えなくていい

「うちのスタッフは特定類型に当てはまるのか」。これを毎回ゼロから考えるのは大変です。

経済産業省は判断を助ける道具を公表しています。

  • 簡易YES/NOチャート:特定類型①②に当てはまるかを、質問に答えながら確認できる
  • 誓約書の参考様式:本人に確認してもらう書式
  • Q&A:実務でよくある論点の整理

これらは無料で公開されています。自社で一から様式を作る必要はありません。

すべての技術が対象ではありません

すべての技術が対象ではありません すべての技術が対象、ではありません
すべての技術が対象ではありません すべての技術が対象、ではありません

ここで安心材料も一つ。規制されるのは、あくまで規制対象の技術です。

たとえば次のようなものは、原則として許可が不要とされています。

  • 公知の技術(すでに公開されている技術)
  • 基礎科学分野の研究活動に関するもの

「秘密でない技術まで止められるわけではない」

ただし「公知だと思っていたら違った」というケースもあります。判断に迷ったら、まず該非判定に戻るのが確実です。

まとめ

  • みなし輸出=国境を越えなくても、技術提供が輸出とみなされるしくみ
  • 判断の軸は国籍ではなく居住者/非居住者。「どこに軸足があるか」で決まる
  • 2022年5月1日から特定類型①②③が追加され、居住者であっても対象になりうるようになった
  • 対象になりうる場面は、外国籍スタッフへの説明・共同研究・海外拠点への指導・委託先への提供・留学生の受け入れなど
  • YES/NOチャート・誓約書の参考様式・Q&Aが公表されている
  • 公知の技術・基礎科学分野の研究は原則として対象外

さて、あなたの職場に、外国の機関とも関係を持っている方はいらっしゃるでしょうか。

いる場合、その方への技術説明が対象になるかどうかは、一度確認しておく価値があります。

みなとくん船長、うちにも外国籍の同僚がいます。確認してみます
あんぼう船長よい心がけじゃ。じゃがな、疑うのではなく、手順として確認する。そこを取り違えんようにな
次に読むなら、こちらをどうぞ。

※ 特定類型①②③の具体的な確認方法・誓約書の運用については、実務者向けの有料記事で詳しく扱います。制度の詳細は経済産業省「みなし輸出管理の明確化」および役務通達をご確認ください。

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