概要
安全保障貿易管理の話をすると、よくこう言われます。
「うちは国内向けだけだから、関係ないよ」
その判断が正しいこともあります。 ただ、「輸出」を「海外にモノを売ること」だけだと思っていることも多いのです。実際の「輸出」は、もっと広い範囲を指します。
この記事では、「関係ない」と思っていた会社が、実は関係していたという落とし穴を5つ挙げます。
当てはまるものが1つでもあれば、一度確認する価値があります。


- 「輸出していない」と思っている会社が実は関係している5つの場面
- 商社経由・メール・外国人社員への説明が、なぜ対象になりうるのか
- 自社が本当に対象外かを、無料で確認する方法
5つの落とし穴
① 「商社に売っただけ」

いちばん多いパターンです。
自社 →(国内取引)→ 商社 →(輸出)→ 海外
自社は国内向けに売っただけ。輸出したのは商社。
たしかに、輸出者は商社です。ただし
【起きること】
商社から「該非判定書をください」と言われる
↓
自社の製品なので、自社にしか判定できない
↓
★該非判定は、メーカーの仕事として回ってくる
該非判定書=「この製品が規制リストに載っているかどうかを、メーカーが書面で示したもの」です。
輸出していなくても、判定はメーカーがやることになります。
そして、ヒヤリハット事例集にはこういう例があります(要旨)。
メーカーの該非判定書どおりに「非該当」として手続を進めたところ、判定に誤りがあり、正しくは「該当」であることが判明した。
資料は、こう明記しています。
たとえメーカーや販売代理店が該非判定を間違えた場合であっても、外為法違反の責任を問われるのは、技術の提供や貨物の輸出を行った者になります。
つまり、責任は輸出者側です。だからこそ、輸出者はメーカーの判定を疑ってかかります。
「うちは国内向け」でも、判定書を出す責任からは逃れられません。
② 「メールを送っただけ」

貨物は1つも動いていません。 でも
海外の取引先に、図面をメールで送った
海外拠点に、仕様書をアップロードした
オンライン会議で、設計画面を共有した
これらは「技術の提供」です。
経済産業省の資料は、技術の提供が対象になる場面をこう挙げています。
① 海外で技術を渡す場合(★日本からのEメールや電話でも)
② 国内で、非居住者 又は 特定類型に該当する居住者へ技術を渡す場合
③ 海外へ技術情報が記録されたUSBメモリ等を持ち出す場合
貨物には税関がありますが、技術にはありません。
詳しくはどこからが「輸出」になるのかで扱っています。
③ 「外国人の社員に教えただけ」

教えた場所も、相手がいる場所も、日本国内です。 それでも対象になることがあります。
海外から来た研修生に、技術指導をした
留学生をインターンで受け入れ、設備の操作を教えた
非居住者にあたる社員に、設計データを渡した
相手が「非居住者」なら、国内でも技術の提供にあたります。
非居住者=「日本に生活の拠点がない人」です。海外から来て日が浅い研修生や留学生も、ここに入ります。
そして、居住者・非居住者は国籍では決まりません。どこに住んでいるかで決まります。 日本国籍でも海外に住んでいれば非居住者、外国籍でも日本に長く住んでいれば居住者です。
さらに2022年5月からは、特定類型という区分が加わりました。日本に住んでいる人でも、外国政府・外国法人から強い影響を受けている状態なら、非居住者と同じ扱いになります。たとえば、外国企業に雇われてその指示で働いている人や、外国政府から多額の資金を受けている人が当てはまります。
これが「みなし輸出」です。詳しくは「みなし輸出」のからくりへ。
④ 「持って行っただけ/貸しただけ」

売っていません。返してもらう予定です。それでも輸出です。
経済産業省の資料は、貨物の輸出にあたる例にこう挙げています。
□ 無償サンプル提供
□ 海外への返品等
□ 展示会のための一時的持ち出し
□ ハンドキャリー(手荷物で持ち出し)
ヒヤリハット事例集には、こういう例があります(要旨)。
研究用にサーモトレーサー(リスト規制該当品)を購入。海外の大学に貸し出すため、手荷物として無許可で持ち出してしまった。
もう1つ。
海外での研究のためフレーミングカメラを輸出しようとしたが、持ち帰る物であったため、輸出申告額を10万円と記入して少額特例を適用して輸出した。ところが、実際の購入価格は800万円であったため、当該特例には該当せず無許可輸出となってしまった。
少額特例=「金額が小さい輸出なら、許可の手続きを省ける特例」です。金額を実際より安く申告してしまえば、当然この特例は使えません。
「持ち帰るつもり」も「タダ」も、理由になりません。
⑤ 「中に何が入っているか知らなかった」

自社製品は非該当(=規制リストに載っていない)。でも、中に入っている部品は?
ヒヤリハット事例集の例です(要旨)。
ドローンの輸出について非該当として手続を行ったところ、部品にリスト規制該当品目があることが判明した。
B国でロボットのデモンストレーションを実施する計画で輸出準備を進めていたところ、リスト規制に該当する角速度・加速度センサーがロボットに内蔵されていることが判明した(メーカーカタログにもリスト規制品であることが明記されていた)。
★2つ目は、カタログに書いてあったのに見ていなかったという例です。
【確認すること】
□ 構成部品のリストはあるか
□ センサー・制御装置・通信モジュールは何を使っているか
□ 各部品のメーカー該非判定書はあるか
完成品の名前だけで判定してはいけません。
それでも「関係ない」会社はあります
誤解のないように書いておきます。すべての会社が対象、ではありません。
【本当に関係が薄い】
□ 国内向けのみで、海外への貨物・技術の動きがない
□ 商社経由でも、扱う製品が食料品・木材など
□ 外国人・非居住者への技術提供がない
□ 海外拠点がない
【一度確認したほうがよい】
□ 商社経由で海外へ流れている
□ 図面・仕様書を社外へ出すことがある
□ 外国籍・海外在住の方が社内にいる
□ 展示会・出張で製品や資料を持ち出す
□ 海外拠点・現地法人がある
□ 装置に他社製の部品を組み込んでいる
下のリストに1つでも当てはまるなら、確認する価値があります。
確認は無料でできます
「確認しろと言われても、誰に聞けば」。窓口があります。
□ 経済産業省の相談窓口(用件別に分かれています)
□ 中小企業等アウトリーチ事業(★すべて無料)
・輸出管理に係る体制構築支援(専門家の派遣)
・商工会議所での個別相談
・説明会(入門編・初級編・中級編)
アウトリーチ事業は、経済産業省が「すべて無料で実施」と明記しています。 商工会議所の会員・非会員を問わず利用できます。
窓口の使い分けは迷ったら聞けます:経済産業省の相談窓口で整理しています。
なぜ確認するのか
経済産業省の入門編資料は、最後にこう問いかけています。
Q. 輸出管理はなぜ実施するのでしょうか?
違法な輸出により、刑事罰・行政制裁・社会的制裁を受けることがないように。 自社の製品・技術が戦争・紛争に使われないように。
2つとも、自社を守る話です。
罰を避けるためだけではありません。自社の製品が、意図しない使われ方をしないように。それがもう1つの理由です。
まとめ
- 「うちは輸出していない」は、「輸出」を「海外にモノを売ること」だけだと思い込んでいることが多い
- ① 商社に売っただけ:輸出者は商社でも、該非判定はメーカーに回ってくる。メーカーが間違えても責任は輸出者側なので、判定書は厳しく見られる
- ② メールを送っただけ:図面・仕様書のメール送信は技術の提供。税関がない
- ③ 外国人の社員に教えただけ:非居住者なら国内でも対象。国籍ではなく居住地で決まる。特定類型もある
- ④ 持って行っただけ/貸しただけ:無償サンプル・返品・一時的持ち出し・ハンドキャリーも輸出。少額特例の誤用という実例あり
- ⑤ 中に何が入っているか知らなかった:ドローンの部品/ロボット内蔵のセンサー。カタログに書いてあったのに見ていなかった例も
- 本当に関係が薄い会社もある。ただし6つのチェック項目に1つでも当てはまるなら確認を
- 確認は無料でできる。相談窓口と中小企業等アウトリーチ事業(会員・非会員問わず)
- 目的は罰を避けることと、自社の製品が戦争・紛争に使われないことの2つ
さて、5つのうち、心当たりのあるものはありましたか。
1つでもあれば、それは「うちは関係ない」ではありません。でも、確認すればいいだけです。難しいことではありません。


- 次に読む:輸出管理でよく出る用語27語 — 公式の用語集をやさしく言い換えました
- あわせて読む:輸出管理の「三本の矢」 — 確認の手順
※ 事例は経済産業省「大学・研究機関 ヒヤリハット事例集」(令和5年9月更新)の要旨、定義・分類は説明会資料「安全保障の輸出管理への入門」(令和7年度版)によります。制度は改正されることがあります。 最新の内容は 経済産業省 安全保障貿易管理 でご確認ください。本記事は一般的な注意点の整理であり、個別の会社が対象になるかを判定するものではありません。
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